「今日は、いい」

志士雄の冷たい一言と、その後に聞こえる「いいの?」と言う由美の色っぽい声。それを聞いた宗次郎の身体は一気にサァッと冷えた。パタンと障子を閉められ一人寒い廊下に立ち竦む。するとすぐに由美の喘ぎ声が聞こえ宗次郎は思わず吐きそうになった。へたん、と腰が抜けた。ずるずるとゆっくり床に尻をつけ震える拳を握り締める。

今までずっと、志士雄と自分との一人きりだったのに。数ヶ月前からだろうか。志士雄は自分の目的であり欲望である国盗りの準備を始め出した。腕の立つ奴、頭の切れる奴を何処からともなく何人も集め、ついには今日。夜伽役の女由美を連れてきたのだ。

ずっとずっと、夜伽役も剣の相手も何もかも全部自分一人で努めてきたのに。剣の相手をする事も少なくなってきて、それでも夜伽には毎晩自分が呼ばれていたのに。今、志士雄が由美を抱いているのかと思うと虫唾がはしる。それに、自分との扱いとは随分、違うようだ。聞こえるだけで分かる。優しい愛撫に甘い嬌声。自分へはいつも、欲望を叩きつけるように、乱暴に抱くくせに。と、宗次郎は思った。そして不意に泣きそうになってしまう。


「ししおさん…」

もう僕はいらないの?
"10人刀のうちの一人"なの?

僕は、
僕は、
志士雄さんの"特別"でいたいよ




ふら、と、眩暈がした。崩れ落ちそうな身体を力の入らない腕で支えて何とか立ち上がり這うようにしてそこを去った。





「ずっと…、二人きりだったのに…」

ぽつん、と、意識の入らない頭で呟く。


ずっと、ずっと、志士雄の言う事に刃向かわず良い子でいたのに。

本当は剣の稽古なんて、どうでもよかったんだ。強くなんて、なりたくなかった。でも志士雄について行きたくて。頑張って、強くなったのに。
セックスだって、初めは嫌でしかたがなかったんだ。後から思えば8歳の自分にあんな事を教えた彼は何て残酷だったのだろうと、思った事もあった。それでも、志士雄を慕い続けていたのに。――裏切られた気分だった。

いや、自分が。

勝手に志士雄の中の自分を格上に捏造してい、 裏切られたなんて言葉は、驕り昂ぶった自分の戯言でしかないのだろうけれども。


END


切ない片思い

 041112