道を歩いていたら、にゃあ、と、その余りの元気の無さに何の声かさえ一瞬分からないような声が聞こえ土方は横を向いた。そこには愛らしい顔に耳と尻尾を生やした人型の猫が、いた。その猫は降り注ぐ雨に全身を濡らしながらにゃあ、と愛嬌を振りまくかのようにもう一度 鳴いた。

「……」

世間とは冷たいもので、その猫の可愛らしさに凝視する者は多くいたが誰も拾って帰ろうとはしない。人型猫は、育てるのも大変だと言うのが一般常識だから当たり前なのかもしれないが。それにこの子はもう5,6歳と言ったところか。自我も芽生え始め言う事を聞かせるのも大変そうだ。わざわざ手間を増やしたいと言う人間はそうはいないだろう。

土方も勿論、放って置いておくつもりだったのだが。

「にゃあ…」
「………」

もう一鳴きしこてん、と首を傾げる猫に目が釘付けにされる。立ち去ろうとするのだが足が動かない。あまつさえ撫でて欲しそうに震える喉に手をやり撫でている自分がいた。ごろごろと嬉しそうに鳴く猫にハと正気になり額に手をやり髪をかきあげ溜息を吐く。

「(おいおい、どうしたってんだよ俺の身体はよォ)」

喉を撫でていた手をそのまま首筋に当て土方はフと気付いた。凄く、冷たい。小さな身体は冷え切っていた。当たり前だろう。もう11月も半ばだ。その上この土砂降りでは冷えない方がおかしい。今朝、雨は一晩中降り続きますと言っていたお天気アナウンサーの声が土方の頭の中で響いた。土方はしゃがみ込むと頭を押さえ考え込む。

「…………」
「にゃあにゃあ」
「…………」
「みゃあ…」

その間にも猫はうるさくにゃあにゃあ鳴いていて。大きな溜息を吐くと半ば投げ遣りに、言った。

「………うち、来るか?」
「にゃあ」

出来れば断ってくれと、心中思っていた土方を裏切り猫は満面の笑みで頷きながら一鳴きしたのだった。







「お前、名前は?」
「そうごにゃぁ」

「寒くないか?」
「大丈夫ですにゃぁ」

「………なんか食うか?」
「何があるんですかィにゃぁ?」

家に着いて30分。冷えた身体を温める為風呂に入って今リビングで取りあえず、とミルクを温めてやっている訳なのだが。その30分の間で、どうやらこの猫は案外生意気、…と言うか、ふてぶてしいと言うか、そんな猫な事に土方は気付いた。外見だけなら物凄く好みで愛らしい猫なのに、と土方は心中勿体無く思う。

「……お前、そのわざとらしい猫語ヤメロよ」
「何でですかィにゃぁ?」

そして先ほどから気になっていた変な猫語を少し冷たい口調で指摘してやった。

驚いた時や吃驚した時咄嗟に出る悲鳴みたいなものにニャァと言う言葉を使うだけで語尾に「にゃ」をつける人型猫はそういない。明らかにこいつのはわざと、なのだ。いやわざと猫語にするならするで良いのだがもう少し「にゃ」の入れ具合を考えても良いんじゃないか、と土方は思う。

「だって猫語の方が可愛いだろィ……にゃあ」
「今明らかに忘れてただろ」
「……にゃあ」

誤魔化すように微笑いながら鳴いたそうごに、コイツ、と後ろ頭を叩きたい衝動に駆られつつけれども可愛いと思ってしまった自分がいて。


「(これは、重症だ…)」


そうごと土方の同棲生活の始まり、だった。


END


始まっちゃってどうすんの

 ごえる 041117