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見回りから帰ってきて近藤の部屋の前を通ったら懐かしい声が聞こえてきて沖田はほんの少しぴくりと体をはねさせた。すぐに会いたいと思ったのだけど少し気恥ずかしいような気がしてとりあえずどんな話をしているのか聞くため聞き耳をたてようとする。だけどそんな事してもすぐに気配をよむのが得意な土方か近藤に気付かれてしまうと思って、やめた。どうしようかと思ってだけどこのまま素通りなんてできるはずもなくてドキドキする胸をできるだけ静めさせながらとんとんとノックをする。 「総悟です。はいっていいですかィ?」 おう総悟か、入ってこい入ってこい、すぐに近藤の声が聞こえてきた。沖田のドキドキが強くなる。会うのは何年振りだろうか、思いながら襖へ手を伸ばしてスっと障子を控えめに開いた。すぐに懐かしい顔が見えて思わず顔がほころんでしまう。 「久しぶりですァ」 「総悟くん?本当に久しぶりね」 大きくなって、にっこりと上品に微笑まれながら言われて沖田は照れたように笑った。横には土方がいて、えぇお前何かわいこぶってんのなんてことがその顔に書いてあってだけど沖田は気にしなかった。自分でも自覚はある。この人の前だとどうもいつもの調子がでない。良く見られたいと思っている、なんて、認めたくなかったけれどもそうなのだろうと思う。 「トシがいつも迷惑をかけているでしょう」 「や、そんな…俺のがいっつもなんか、わがままばっか言ってるし…」 ぼそぼそと沖田が言うとまぁ、と言っておかしそうに笑った。良いのよ総悟君は、そう言われて沖田は自分の心の中が温まるのを感じた。 土方の母親は、沖田にとって他の人間とは全く違った存在だった。 いや何も土方の母親に限定されている訳ではない。ただ1番近しい母親という人物が土方の母親だっただけで、沖田は「母親」という存在すべてにとても敏感だったのだ。いやけれどしかし、近しいといっても土方の母親とすら沖田はそんな繁盛に会う訳でも会っていた訳でもない。今会うのも数年振りだし会った回数を統計してみても10を満たないくらいだろうと思う。しかしだからこそ沖田の中で「母親」というものはとても特別で憧れにも似た感情を抱く生き物だった。 沖田が物心ついた頃、すでに沖田の母親はいなくて沖田は母親がどういう者なのか知らないのだ。だからだろうと思われる。 何をしていたって平然としていられる自信のある沖田が母親と話をしていると緊張なんてものをしてしまうしどう思われているか気になってしまうしもっと一緒にいたいと思ってしまうしすごく意識をしてしまっていると、思う。穏やかな雰囲気に落ち着くし話していて苦になることもない。自然に笑みが出てくるのが本当に不思議でならなかったがこれが母親の持つ力なのだろうと沖田は勝手に思っていた。 そんな沖田を土方はバリッと茶請けの煎餅を食べながら見ていた。 沖田が土方の母親と会ってる時は大抵土方も居合わせていたので沖田の態度が露骨に違うのは土方も大分昔から知っている。そんなに会った事はないのだけど妙に懐いているというかとにかく態度が違う、と、土方は思っていた。猫を被っている、という言葉があてはまるかと土方は考えるけどそう言うには沖田の母への態度はとても自然なように見えた。素の状態なのだろうと、土方は思う。 まぁ楽しそうだし良いんじゃねぇかなぁとか思ってだけれどあんまりにも楽しそうなのと素直なのが気に入らなかったんじゃないかと聞かれればあぁそうなのかもしれないと考えるくらいには気に入らなかった、のかもしれない。 「なんだよおめぇ。かあさんの前でだけ可愛くなりやがって」 だからきっと母親が立ち去り沖田と2人きりになった時、こんな言葉が出てしまったのだろう。随分嫌味たらしい口調になってしまったと土方は少し後悔をする。 チラリと沖田がこちらを見て、その瞳に反抗的なものが含まれていると土方は感じた。可愛くないことを言うのだろうと土方は予想したのだけれど沖田はすぐに瞳をそらせて流し目をして見せる。 「すいやせん、土方さんのお母さんなのに…俺ばっかしゃべっちゃった」 「は?あ、いや、え、や、そんなの、え…べつに…」 予想に反して申し訳なさそうに言われてしまって土方は焦った。すいやせん、もう一度謝られて土方の方が悪いことをしているような気がしていたたまれなくなってしまう。いや、土方ももう一度言って視線を逸らした。 だけどすぐに横目でちらりと沖田の方を盗み見てみると沖田は項垂れていて思わずドキとする。土方はこういう沖田に慣れていないものだからどう接したらいいのか分からなかった。しかし土方が何を言おうか考えている内に沖田がはぁと憂い気に溜息を吐きおノブさん…と母親の名前を愛しげに呼んだものだから土方はピキッときて思わず沖田の頭を叩いた。 END |
| ノブは姉の名前ですすいません… マザーコンプレックス 051209 |