道場の門から10メートルほど離れたところに土方はいただろうか。暗くてよく見えなかったが門の前に座り込んでいる人影がいてそれが沖田に見え土方は眉を寄せる。目を凝らして食い入るように見てみた。その人影はじべたに座り込み足を三角に折り曲げて、顔を太股にくっつけ身をちぢめるようにしていた。顔は見えなかったけどやはりどう見たって沖田にしか見えない。土方は、すぐ近くまで行ってから声をかけた。

「総悟」

言うとその小さな塊がひくと動いて顔が出てくる。やはり、沖田だった。呼びかけられて初めて土方の存在に気付いたのかびっくりしていた。

「お前、もう11時過ぎてんだぞ!何してんだ!?」
「…」
「総悟?」

土方は怒鳴ってしまったけれどもよく見てみると沖田はとても薄着をしていておかしいと思う。沖田はとても寒がりなのだ。こんな寒い日の夜に、好きこのんで外に出ているはずがない。そこまで考えてあらかた見当がついて土方は少し眉を寄せた。

「ホラ、中入るぞ」

そしてそう言って手をとろうとしたのだけれど触れる前に引っ込められる。土方は苦笑した。沖田は怯えたようにまた太股に顔をうずめてしまう。

「や、」
「…大丈夫だから」

沖田は、近藤の義母に隠し子だと思われているらしく冷たくあたられていた。こき使われているのを土方もよく見るし体につねられた痕やあざも見たことがあった。だけれど沖田は何も言ってこないから、土方は沖田の自尊心をたてようと特に首を突っ込んだりしたことはなかったのだけれども目の前で見せられたら助けないわけにはいかない。
ほら、もう1度言ったけれど沖田はふるふると首を横に振った。

「だって、まだ入っていいって、いわれてねぇもん…」

沖田は項垂れる。寒いだろ?土方は聞いたけれど沖田は首を横に振るだけだった。
けれどそこそこ厚着をしている土方だって相当寒い。沖田は小袖1枚しか着ていなくて、どう考えたって寒くないはずがない。僅かにふるふると震えているのが見て分かった。放っておけるはずがないだろうと土方は思う。けれどもてこでも動こうとしない沖田を仕方ない、と土方は無理に抱き合げた。

「うわっ、つっめてぇな、お前」
「やだ!やだ、ひじかたさん!おろして…」

思っていたより肌は冷えきっていて土方は思わず顔を顰める。暖めてやろうと胸に体をくっつけたのだけれどばたばたと暴れられた。無理におさえこもうとしたけれどとにかく激しく暴れるものだから苦労する。仕方なく肩の上にのっけた。

「ひじかたさん!いやだってば、…いやだ!」
「ちゃんと俺が言ってやるから」
「いいんでさァ…やだ、やだ!」

泣き出さんばかりに叫ぶ沖田。しかし土方の気は変わらなかった。沖田には沖田なりの考えがあって拒否している事に、土方は気付けなかったのだ。
家の中に入ると沖田はやっと静かになって(大きな声をだしたら義母にばれると思ったのだろう)土方は息を吐く。そして義母に見つからない内に沖田を部屋の中へ連れて行ってしまおうと足を急がせた。だけれども。会って、しまった。うっわ、土方は思う。
沖田は義母が見えたとたんどすん、と土方の腹を蹴った。不慮の出来事に土方は沖田を離してしまう。うまいこと床に着地した沖田は一歩前に出た。

「総悟?誰が中に入っていいと言ったの」
「いや、おれが」
「すいやせん」

土方が庇う前に、沖田が謝った。
すいませんじゃないでしょう、冷たく睨まれながら言われてばつが悪そうに瞳を伏せる沖田。それを見ながら、沖田はこんな風にばつの悪い思いをするより、義母に嫌味を言われて惨めな思いをするより、寒い外で耐えていた方がましだったのだという事が土方には分かって悪いことをしたと思う。
土方はここに住んでいるわけではなくて沖田のすべてを守れるわけではない。こんな一時しのぎなんの役にもたたないのだということがやっと分かった。

「言ったことも守れないの?本当に馬鹿な子ね」
「すいやせん」

沖田は、近藤がいる時は近藤の後ろに隠れて近藤に守ってもらっていた。それを知っていた土方は今、自分の後ろに隠れようとはしない沖田に寂しさを感じる。あたりまえだけれどもやっぱり近藤と自分とじゃ信頼の濃さが違うのだと思った。さきほど会ったのが近藤なら沖田は素直に家の中へ入ったのだろうか。そんな事まで考えてしまう。
けれども義母の声が怒鳴り声に変わってきたのに気付きようやく土方は口を挟んだ。

「おかみさん、総悟が何したかしんねぇけど、こんな寒い日に外へほっぽりだすこたねぇだろ」
「トシさん、そうは言ってもねぇ」

はぁと溜息を吐いて義母はまた沖田を睨んだ。沖田は無表情で、義母はそれを見て余計に腹が立ったらしかった。

「本当に可愛くない子だよ。憎たらしい」

心底わずらわしいように、吐き捨てるように言った義母に土方はいらつく。沖田が可哀想でならなかった。だけれどどうしてやる事もできなくって、もどかしい。とにかくここに沖田をいさせたくなくて土方は沖田を抱き上げた。そしてスッと足早に義母の横を通って沖田の部屋へと向かう。後ろでまた義母が何か言っているのが聞こえてきて土方は眉を寄せながら、そっと沖田の耳をふさいだ。




「土方さん、ありがとう」

部屋の前までついて下ろしてやるとそう言って沖田が笑った。
きっと沖田は自分のことを嫌ってしまっただろうだってあんまりにも無理矢理すぎた。そう思っていた土方は驚く。土方が悪態をついてしまったせいで、きっと明日またいじめられてしまうに違いない。それを沖田が分からないはずがない。なのに笑ってくれる沖田が健気で土方には自分でもびっくりするくらい可愛く思えて守ってやりたいと初めて思った。いつか絶対すべてから守れるようになってやると、土方は思い1人静かに誓いをたてた。


END

義母さんにいじめられる総悟にたまらなく萌えるのは私がおかしいのでしょうか…! 

  かわいい鳥 051217