帰ってきてからずっと机に向かっている銀時にいい加減沖田は飽きてきていた。
小テストの採点をしているらしいので、近寄ったらものすごく怒られることを分かっている沖田はだけど少しくらい怒られても良いから構って欲しいと思い始めてしまっている。だって今自分がいる意味ってなくないかってちょっと思ったら急に物凄く不安になってしまったのだ。
先生、遠くから呼びかけてみる。集中しているのだろうか、それとも聞こえていてあえて無視しているのだろうか、全く反応がない。沖田は立ち上がった。足音を立てないように銀時まで近づいていく。


「せんせえ」
「っ、…コラ総悟」

どんっ、と背中に抱きついて腕を前に回して甘い声で名前を呼んだ。だけど銀時の声は不機嫌で、首に絡めようとした腕を掴まれる。そしてそこから外された。大分乱暴な扱いで沖田は腹が立ったが銀時はもっと怒っているようだった。

「近寄るなっつったろ」
「…」

言われてパシンッと強く頭を叩かれる。沖田は無言で痛む頭を撫でながら口をとがらせた。銀時はパッと小テストを裏返しにしていてそんなに自分に見られたくないのかなんて思う。そんなん当たり前のことなのだけど妙に傷ついてしまった。

「ひでぇ」

ボソリと言ったら何がだってまた頭叩かれてそれに黙って睨んでたらまた叩かれた。オイオイ何ですか人の頭パンパンタンバリン奏者気取りですか、どこかで聞いたせりふを思ってだけどそれは口にしないでおく。銀時の瞳が鋭く自分を睨んでていくら沖田だってそこまでアホじゃないのだ。

「沖田君、あのねぇ先生は近寄っちゃだめだってさっき言ったよね」
「うん」
「じゃあ向こう行ってなさい」
「だって、暇なんでィ」
「じゃあ帰りなさい」
「…」

上からの口調がやけにつっかかった。冷たい銀時の態度が余計沖田の心を不安にさせる。そりゃ今日は帰れって言われたのにいやだって我侭言って今ここにいるのだけれど。だけど、小テストの返却なんて明日が明後日になったて明後日が明々後日になったって別にそんな変わりはしない。むしろ返ってこない方が良いと思っている生徒が大多数を占めているのだから生徒が喜ぶだけ後の方が良いんじゃないかと、沖田は思うのだけどそんな話を銀時にしても溜息を吐かれるだけだ。

「そんなにそれ、俺に見せたくないの」
「当たり前の事きくんじゃねぇの」
「俺って、特別なんじゃないんですかィ」
「…沖田、いい加減にしとけよ」
「…」

厳しく言われて沖田はいよいよ本気で気分が悪くなった。

銀時の中に沖田は大分入り込んでいっていると思うけれど、絶対に入っていけれない領域が、ある。
変なところで銀時は生真面目なのだ。別にこの小テストを沖田が見たからって何が変わるわけでもないのに。ただ、沖田の心が満たされて銀時の教師としての格が少し下がって見られた生徒のプライバシーがほんの僅かに侵害される、だけ。たったそれだけだ。他の何が変わるわけでも減るわけでもないってのに銀時はかたくなに見せようとしない。
見せるだけで自分の機嫌がころっとよくなるのを分かってて見せてくれないのだとしたら銀時はなんて意地悪でなんて自分のことを好きじゃないんだろうと沖田は思った。

「ほら、もう向こうに行きなさい」
「…」

しっしっと手で追い払われて沖田は項垂れる。
そのまま黙り込んで昼間の出来事を、思い出した。


猿飛と坂田って、妙に仲良いよなァ思わね?

クラスメイトの一言にえ、何で?沖田は思わず焦って聞いてしまった。だけど分かってないのは沖田だけだったようで、周りのクラスメイトはあぁ確かにと納得しているようだった。気付かねぇの沖田、絶対デキてるって、皆に言われて沖田はとても驚いた。そして、ショックだった。付き合ってるかどうか云々は置いておいて、そんな風にうつってるらしい事に、だ。自分の知らないところで、2人がそんな風にしているなんて、と、沖田は思った。

授業中とか朝会の時とか、自分は大勢の生徒の中の1人でしっかり見ていないとうずもれてしまいそうなほどの人の中にいて、いくらでも変わりのいる存在で、全然、全く、対等じゃないのだ、教師と生徒は、自分と銀時は。沖田は胸を痛めながら思う。
ただ授業中や朝会の時はどうしようもないのは分かっている。何もその大勢の中で特別扱いしろとは言わない。期末や中間テストの答え見せろとか成績5にしろとかそんなことも言わない。(けれどそれすらも沖田にとってはそんな大したことではなくてそうしてくれないのが不満だったけれど)ただほんの少し、他の生徒と違うことをして欲しいだけだ。
授業中に自分の方向いて笑ってくれたり、休み時間ほんの少し構ってくれたり、放課後車で送ってくれたり、それだけで沖田はとても自分が満たされるだろうと思っている。なのに銀時は学校では目も合わそうとしないのだ。
今回の小テストにしたって、そうだ。沖田は何も答案をじっくり見せろと言ってるわけじゃない。ただ採点をする銀時に触れられる距離にいたいだけだ。見ちゃいけないと言われたら見る気なんて、沖田にはないのに。


「いじわる」

ボソリと呟くとア?不機嫌そうに凄む銀時を無視して沖田は立ち上がった。ダッと玄関まで一直線に向かう。銀時は追いかけてこなかった。それに確かに感じた寂しさに気付かぬ振りしてもういいやって思ってドアを開ける。そのまま外に出てその寒さに身震いした。それを振り切るように大きな音を立ててカンカンッとアパートの階段を下りていく。沖田はいらいらしてて何かにあたりたくてしょうがなかった。階段をおり終ったところに銀時のポストが見えてそれをガツンッと蹴っ飛ばす。だけどそれでいらいらが消える訳ではなくて逆に少しヘコんだポストを見てやっちゃったと後悔してしまって自分を馬鹿だと思った。

「あ」
「…あ」

そうこうしている間に銀時が下りてきていたらしくこちらを見ていた。それをみて沖田はビクッと体を強張らせる。追いかけてきて欲しかったけど、追いかけてきてくれて嬉しいけど、今このタイミングで来ることはないだろうと思った。蹴られたとこ、ばっちり見られている。

「何やってんだ」
「…すいやせん」

叱られるって思って思わず身を竦めた。だけど銀時は苦笑しているようだった。

「蹴るなら、俺を蹴ってくんない」
「え…」
「物にあたんないで、俺にあたって。物に嫉妬しちゃう」
「……」

白々しいと沖田は思った。今更ご機嫌とりなんて、と。だけど心のはしでは喜んでいるのを否定できない。嘘でも何でもそんな事言ってもらって嬉しくないはずがなかった。しかし、その言葉を鵜呑みにして銀時を許したらまた傷つくのは自分だ。それは、嫌だった。

「うそでぃ」
「何で?」
「嫉妬するほど俺のこと、好きじゃねぇくせに」

言ったら銀時が笑った。それはやわらかい笑みで、沖田のたまった不安がとけていく。

「好きだよ」
「っ…」

アッ、と、思わず嬌声が出そうになった。それほど銀時の声は沖田の体全部を刺激したのだ。体だけじゃない、感情も、心も。沖田はたまらなくなって眉を寄せた。こみあげてくる気持ちをおさえきれなくて銀時に抱きつく。せんせぇ、小さく呟いて軽く蹴ってやった。すぐに体に腕がまわされて心地よさに息を吐く。こんな事でころっと騙される自分を馬鹿だと思った。馬鹿だと思ったけど、もう少し馬鹿でいてもいいやって、沖田は思った。


END

無駄に長ェエ
教師と生徒の恋愛の難しさをね、書きたかったんです
銀時の方が常に何歩も上手なんですよちくしょう(えー) 

  どうぞご用を 051223