カーン、カーン、と静かだった空間に午前2時を知らせる鐘の音が鳴った。それに沖田はハッと意識を取り戻したかのようにビクリと一瞬肩を揺らせ今まで浴びるように呑み続けていた酒の手を止めた。そしてチラリと時計を見る。それは先ほど鳴った鐘の数と同じく短い針が2を刺していて。おっせぇなぁ、と沖田は呟いた。

そしてもう一度酒瓶を口に付け呷ったのだがごくんと一飲みしたらもうそれ以上酒は口内に入ってこなくて。眉を顰め酒瓶の中を覗いてみる。そしてあー、と沖田は少しイラついた声音で呟いた。知らない内に可也の酒を呑んでいたらしい。満杯に入っていた一升瓶の中身はもう空っぽだった。高い酒だったのに、と味わって呑まなかった事を後悔する。


「ハァ…」

あの人の帰りが遅い度に酒を呷る自分。アルコール中毒になったらあの人のせいだ、高い酒が無くなっていくのもあの人のせいだ、明日の朝二日酔いになるのもあの人の、せいだ。捲くし立てるようにそう思った後沖田はころんと横になった。顔に手を当てると熱が伝わってきて自分が酔っているのだと言う事に気付き音も無く笑った。

「きょうははやくかえってくるって、」

言ってたのになぁ、と呟いた声は掠れていて。暫しボーと天井を眺めていたらガタッと音が鳴ってあの人が帰ってきたのだと気付いた。近づいてくるその人の気配に何て言って文句を言ってやろうかと考えるが酒で朦朧としている意識の中では良い皮肉も思い浮かばなくて。結局バツが悪そうに障子を開けた土方に沖田はヘラと笑って手を振るしかできなかった。


「お勤めご苦労さまでーす、っとォ」

覚束ない足で立ち上がり絡むように土方の肩に手をのせる。その途端フラと倒れそうになったのを土方に支えてもらった。けれど顔を埋めた胸元からふわりと甘ったるい香りが鼻を擽り沖田はどん、と土方を突き飛ばした。しかし力の入らない身体では土方を突き飛ばす事はできず反対に自分が飛んでしまい今度こそ床に叩きつけられた。

「いっ、た、」

ダンッと叩きつけられて畳で擦ったのか手足に擦り傷ができそれがじわりと痛みになって染みてきて沖田は泣きそうになった。いや本当は先ほど。甘い香りを嗅いだ時から泣きそうだった。いや本当の本当はもっと、前。土方が出かけた時から、泣きそうだったのだ。


背を向けたままピクリとも動かない沖田に土方は溜息を呑み込みおいと声をかけた。それでも沖田は動かない。

「おい、総悟」

しゃがみ込んでぐいと肩をこちらに引き顔を拝んでみれば無愛想に畳を睨み付けている沖田が目に入った。泣いていなかった事にホと胸を撫で下ろしけれども逆に泣いていれば可愛げがあるものを、と土方は思いあれと自分の矛盾さに首を傾げた。つまりは、コイツが何をしていても気に入らないんじゃないかと 思う。

さてこれからどう宥めようか。次こそ溜息を吐こうとした瞬間。ぐいと首を引かれ土方は目を見開いた。近くに沖田の 顔。無表情なその顔からは機嫌を伺う事も何を考えているかも読み取る事ができない。

フッと沖田が憂い気に微笑ったかと思えば首の後ろに回していた手を首の横側にぺとりと付けた。そしてぐ、と親指。喉仏に当たっている親指に力を入れた。ゾクリと鳥肌が立つ。総悟、と呼びかければそれに応えた訳ではないのだろうがピンク色の唇が言葉を紡いだ。

「殺したくなりますァ、 土方さん」

その目は何処までも冷ややかで。そう言った後沖田はぐ、と一際強く親指に力を入れた。そのまま土方の肩に頭を置く。そうするとまた香水の匂いが鼻につき沖田は泣きそうに顔を歪めた。その匂いに酔ってこのまま、本当に、この人を殺してしまったら。もうこんなに辛い想いも切ない想いもしなくてすむのかもしれない。

「(おかしいんだ、今の俺は…)」

とめて土方さん、振り払って土方さん

目を閉じながら願うように祈るように思う。不意に鼻で笑うような声が聞こえてバッと沖田は顔を上げた。困ったような呆れたような冷めたような顔だ と、思ったいたのに。目に映った土方は穏やかに 微笑っていた。

「いいぜ、殺せよ」

ビクンと沖田の肩がはねる。

「(歯止めが効かなくなるよ今止めないと本当に殺してしまうよねぇ土方さんいいの死んでくれるのねぇ)」

徐々に力を込めていっているのが自分でも分かる。首に掛かっていた土方の息がどんどんと薄れていくのも分かった。くたんと倒れこんできた土方を優しく抱きとめた。


END


はじめはこんな話じゃなかったのに(もにょもにょ)

 ラヴシックの 041121