なんて不謹慎なんだろうと、自分でも思う。そのくらいの分別はついている。だけど沖田はそれでも好きだったのだ。

見惚れていた、鞘からなめらかに抜かれる刀に。輝いてまぶしくて沖田は思わず瞳をつむりそうになるだけどしっかり目ん玉見開いただって本当に綺麗なのはこれからだ。鞘を出てから相手を斬りつけるまで動きに一つの無駄もない銀色の光が肉をかっさばいて血しぶきをあげる。この人は避けない予想通り血にまみれた。あぁ、うつくしい、沖田は全く自分は何事に対しても無感動の人間だとちゃんと自覚をしていただけど、この時は胸をはって人間らしいと言えるだろうと思っていた。うつくしいと思える、きれいだと思える、そう思えるのは人間にとって1番大切なことなのだと沖田は思っているのだ。笑える話だけれど。

「あ、あ…」

どっ、と、こみあげてくるものがあって沖田は掠れた声を出す。今まで確かに正常に働いていた全身の機能が反乱おこしたような体が一瞬のうちにいくつにも分裂してしまったようなそんな不思議な気がした。恍惚し過ぎて頭がくらくらする。ふつふつとわきあがってくるのはなにだ。あつくたぎった興奮が体を支配する。息が荒くなる。ふらりと、体が傾いた。かと思ったら沖田は地面にひれ伏していた。うつぶせになって胸が苦しくてこのままだと死んでしまうような気がしてもぞもぞとゆっくりうごめくようにあおむけにねがえる。あぁ、あぁ、あぁあ、沖田は叫びたくってたまらなかった。

どくんどくんどくん、せわしなくなり響く心臓は全身を這いずりまわっているような気がした。沖田は瞳を閉じる。瞼の裏にもう一度、さきほどの光景を思い描いてやっぱりなんて美しいんだろうと、思った。見ることのできる自分はなんて幸せなのだろう。この幸せを誰に感謝すればいいのだろう。怖くなる。だってこんなに幸せな気分を味わえる権利なんて自分にはない断言できる。あぁだけど、だけどね幸せな気分を味わえる権利がなくなってしまったのはその幸せを味わってしまったせいなのです。あのあまりに綺麗な光景を見た瞬間自分もしてみたくなってしまったのです。
ねぇだからもう少し、まだ奪わないでお願いです。もう少しだけ自分にこの地上で生きれる権利を、お願い。


END

  様もう少しだけ 060118