「やまざきぃい!!」

バァンッと大きな音を立ててドアを開けたのと同時に沖田が叫んだ。あ、はい、沖田の機嫌が悪いのが分かった山崎は気を荒立てないよう控えめに返事をする。だけど意味はなかったらしく沖田がギンッと睨んできた。怯える山崎にどすどすと足音を大きくたてて沖田は近寄る。その迫力に山崎はあぐらかいてたのをやめて思わず正座に座りなおしてしまった。その山崎の横にどすっと沖田は偉そうにあぐらかいて座る。

「おめぇ、いくつ?」
「え、…23に、なりましたけど」
「ふっ〜〜ん。びっみょー」
「そう言われましても…」

沖田はほんの少し首をかしげさせて、少し考え事をしている風な仕草を見せた。ちら、と、山崎の方を見る。

「土方さんがさァ、」
「はぁ」
「俺に嘘吐くんだよね」
「は?」

予想しなかった言葉に(ちなみに山崎の予想はぶん殴るために適当な理由を言われるだった)山崎は気の抜けた返事をしてしまう。沖田はとても怒ってるらしくって拳をギュと握りしめ眉間に皺寄せて、珍しく感情を露にしていた。

「重要な書類、今日中に提出とか土方さんが言ったもんだから俺すっげあわてて急いでやったのにさァ」
「はい」
「できあがって近藤さんに出しに行ったら総悟早いなァとか言われてねィ」
「うん」
「え、今日まででしょ、っつったら、まだ期限まであと1週間あるぞとか言われて」
「あー…そうなんですか」
「そうなんですかじゃねぇよ!」

バシッと後ろ頭はたかれる。いってぇ、心の中で呟きながら山崎は副長の気持ちも分かるけれどなぁ、と苦笑交じりに思った。そうでも言わないと沖田はなかなか仕事に取り組もうとしない、嘘も方便という奴だ。

「この前だって俺がひろってきたネコ土方さんが洗ってやるとかゆってくれて連れてって、あぁ土方さんっていいトコあるなとか思ってたらアイツそのネコ捨ててきたんだぜィ!!」
「あー…それは、…ひどいですね…」
「だろィ!?しかもさァ、俺が嘘吐いたんですかィって問い詰めても「あぁ」とかひとこと言うだけでワビもしねぇの!え、アイツ何様!?何様のつもりなんでィマジ!」
「あ、ですね…」
「もーこんなん何度目だと思ってんだィあいつァ!っつーか何度目だと思う山崎!?」
「え、えー…ご、ごかいとか」
「惜しい!21回!」
「えー…」

全然おしくないじゃん、突っ込みは心の中だけにとどめておく。

「21回だぜ21回!俺21回も土方さんに騙されてんのんでもって土方さんは騙してんだぜ俺のこと。しかもね、数えだしたの最近だからね、もっとでさァ小さいころからあわせるともっとなんでさァ!」
「はぁ、そうですか…」
「大人ってさらって嘘吐くんだぜィ嘘吐くの悪ィことだと思ってねーんでィ!マジむかつく!」
「は…」

はぁ、そうですね、そう言おうとして山崎はピタと止まった。嘘吐くのが悪いことって沖田さん、それいくつの子供の言葉ですかって、思ったからだ。だってこんなに見たくもない人の裏側バシバシ見てしまう職業ついてて「嘘が悪いこと」なんて幼稚園児でもあるまいし、だけどあぁいいなぁと、山崎は思った。沖田の心と頭の中はまだ、子供のころのままなのだ。少しずつ少しずついろいろな事を知って穢れていく、きたなくなっていく、人間は。数年たって「少し」が積み重なってたくさんになった頃、ふっと自分の人生を振り返ってみると自分が汚れたというのがはっきりとよくわかる。そんな体験を沖田はまだしたことがないのだろう。
そこのところ土方の場合はっきり割り切って善悪つけているので沖田と合わないのはしょうがないと山崎は思った。価値観が違うのだ。
山崎はどう沖田に言おうか迷う。
山崎はまだ中途半端なところにいた。何の後ろめたさもなく嘘を吐けるほど大人ではないけれど何かの為に吐いた嘘を悪いことだと思えないし自分だってやむをえなく嘘を吐く時もあってその時は後ろめたさを感じない時だってある。
沖田ほど純粋ではないけど土方ほど汚れてはいない。だけど下手なことを言って沖田にきたなさを教えることはしたくない、それだけははっきりとしていた。

「まぁ、丸くおさまればいいんじゃないんですか…」
「やーまーざーきー、てめぇもンな事言うかコノヤロー!」
「え、だって…」

だって、ねェ!?他に誰かいればそう話がふれるのだけれど生憎とそういうわけにはいかなくてそこで山崎の言葉が切れる。山崎はそのままちょっと用事がと言い逃げようと思ったのだけれど沖田の勢いはとまらない。よっぽどたまっていたのだろう。

「だってひじかたさんが嘘ついちゃいけねぇって、俺が小さい時に教えたんだぜィ!?」「あ、まぁ、…」
「なのに今は嘘も方便だとかゆって、お前も嘘の吐き方覚えろとかゆって、言ってること違うのわっけわかんねぇむかつく!」

ギュウと音がするくらい沖田が眉間に皺を寄せる。ありはしないのに泣きそうだと、山崎は思ってしまった。何か言って泣かせてしまっては困ると、山崎は黙る(ありはしない、ありはしない、山崎はそう思うのだけど沖田があんまりにも眉を寄せていたものだから山崎は落ち着けたものじゃなかったのだ山崎はこんな沖田の表情見慣れていなかった)。

「むかつく!」

けれども不意に泣きそうに歪まされた顔が次は怒りを露にしてそれに山崎はホッとする。泣かれるより怒られた方がましだ。

「むかつくむかつく!山崎ィイむかつくようう」
「あー、はいはい」

地団太踏むように駄々捏ねるようにそう言ってぎゅうと抱きついてくる沖田。あぁ役得、山崎は思って沖田のやわらかな体の感触に今聞いた話がふっとんでいくのを感じた。どうでもいいとまで思ってしまう。抱きつかれたまままだ愚痴を言う沖田にうんうんあぁそうですね、かわいそうに沖田さん、副長ひどいです、適当に相槌うちながらだけど話しは頭の中に全く入ってきていない。
山崎はそっと心の中で思うごめんね沖田さん俺も、うそつき。


END

山崎はね、年が近いからね、土方さんの愚痴をよく言うのです沖田は 

  そつき 060121