甘味屋から出て数メートル。久しぶりに甘いもの食べて満足して頭が呆けていたわけではなかったと思うのだけれど沖田がいつの間にか横にきていて銀時は吃驚する。空色の大きな瞳が自分を上目にじぃと見据えていてそのままずい、と無造作に手を差し出された。え?俺?銀時は自分を指差して首を傾げる。沖田はこくんと頷いた。差し出された手の下にひらいた手を出すと沖田の指がひらかれ握られていたものが顔を出す。

「わー…」

久しく見なかった諭吉さんが5人。握られていたせいでくしゃくしゃになっていたけれど価値は変わらないそれは銀時の手の平に押し付けられた。

「あげる」

言って沖田は押しつけた手とは反対の手をとりぎゅ、と握る。それを自分の頬まで持っていって、銀時の手の甲の方ですりすりと頬を撫でようにこすりつけた。銀時は別にいやではなかったので好きなようにやらせてあげたけれど、押し付けられた紙が気になった。

「なぁに、これ」
「賄賂」
「…直球だね」

ふぅ、控えめに溜息を吐きながら銀時は器用に片手でお札の皺を伸ばす。男前が台無しですよ諭吉さん、皺だらけになった顔のばしながら思っていたらその指先に沖田の指が近づいてきて絡めとられた。ゆっくりと沖田の方へ視線を移す。表情がない、何を考えているのか、よめない。

「これからも俺と会ってほしいんでさァ」
「これは、いらないんだけど」
「……」
「いらない、よ?」
「……」
「……」
「…いくらならあってくれるの」

どう勘違いしたのか銀時がいらないと言ったのは金額が足りないと思ったらしい。見当違いなことを聞かれて銀時は言葉につまってしまった。

「1回10万?」
「え」
「少ない?20万?30万?」
「いやいやいや」

どんどんとつりあがっていく値段に銀時はあわててとめに入る。オイオイくそガキが何を言ってるんですかあ、でもガキでも俺の数倍稼いでんだよな思ったら少しむなしくなった。

「銀さんね、別に生活していけるだけの金があればいいから銀さんすごく質素で地球に優しい人間だからってそーじゃなくってあのねぇ」
「なあに」
「どうして、お金?」
「どうしてって?」
「くれなくたって、会って欲しいなら会うよ」

沖田は首をかしげさせて、ぱちぱちとまばたきをした。

「まぁ、もらっておきなせぇよ」
「……」
「俺あんまり金使わないわりにいっぱいもらうからいらねぇし」
「……」

銀時はそんな事を言う沖田に違和感を感じた。いつものあの傍若無人な態度はどうしたのか。お金払って会ってくれ、なんて、おかしい。大体この子は逆にお金をもらって会ってやるって言う方が合っているなんて。
銀時は沖田のことはすごくすごく気に入っていた。だって妖精さんのように可愛くてふわふわしててねこみたいに気ままで愛らしくて無垢って言葉がぴったりのイメージで、あぁこんな子いるんだって和ませてくれた。俗世の汚いこと何にもしらないような、ちいさなこどものまま体だけ大きくなったような、銀時は沖田のことをそんな風に思っていた。だけどそれはとてもおおきく違ったみたいだったいや冷静になって考えればわかっていたことなはずだ無垢なはずがなかった何も知らないでいるはずがなかった真選組なんて職業についていて。だけど沖田にはそんな肩書き蹴散らすくらいの純真さがくっきりと銀時に分かるくらい滲みでていてだから、銀時は勘違いしてしまっていたのだ。

「こんなん、いらないよ」

言ったら沖田はすごく不思議そうな顔をした。慣れている様子からしてよくこういうことをしているのかもしれない、金で動かないものが珍しかったのだろう。
きっとこの子の中で金ほど絶対的なものはないのだろうと、銀時は思った。確かに世の中の大半はそうだと銀時だって思う。どれも金で動くものばかりだ。だけれどもそうでないものだって、ある。自分はそうじゃない、銀時は思っていた。そりゃああれです、金もらえるなら何でもするけどね万事屋だしね、何か困りごとがあったらどうぞ万事屋へ困りごとなくてもいいですとりあえず金持って万事屋へ、みたいなキャッチコピーだって作っちゃうよでもだからって愛まで金と引き換えにさせる気はない。そんな事してたら何が本当で何が嘘か見失ってしまうそんなことにはなりたくなかった。

「あ、…そんなに俺のこと、きらい?」
「そーじゃなくて、ね」

またも見当違いなことを言われて銀時は苦笑をする。どうしてこんなに卑屈なのかなぁ、不思議でたまらなかった。

「逆だよ」
「逆?」
「こんなんくれなくたって、俺は君のこと好きだよ」

喜ばせるつもりで言った言葉はけれどそれこそどうも見当違いならしかった。沖田はほんの少しの間ぽかんと口をあけてまぬけな顔をした後だけど皮肉に顔をゆがめさせて鼻で笑った。自嘲するような笑い方だった。

「うっそでィ俺なんて」

くしゃりと沖田は髪をかきあげる。視線をゆっくりと横に動かした。瞳を細めさせてかくん、と、顔を俯かせる。

「知ってるもん、おれ、お金あげないとおれのことなんて誰も愛してくれねぇの」
「どうして?誰がそんなこといったの?」
「…だれも」
「じゃあなんでそう思うの」
「……だって、そうなんだもん」

そう言ってふっと沖田が僅かにだけ表情をくもらせた。さきほど銀時が見たのと同じ空色の瞳は今は悲しげな色を宿している。その瞳の見つめる先は遠くですべてを見透かしているかのような錯覚を銀時は感じた。この世のすべてを悟っているかのような、瞳をしていた。銀時が思っていたより沖田はずっとずっと大人だったのかもしれない。寂しい孤独な、大人。ものすごい勢いで沖田に惹かれていくのが分かった。

「そんなこと、ないよ」

口からでたその言葉は本当に心から思っていたことでだけど言葉にのせてみたら随分と嘘っぽく聞こえて銀時は舌打ちしたくなった。銀時は本当のことを言うことに慣れていなくて嘘を言うときならいくらでも本当のことのような口調で言うことができたのにいざ本当のことを言うとなるとわざとらしくしか言えないらしくて困ってしまった。本当に思っていることなのにいつも本当でないことでも本当のことのように言ってしまっているため区別をつけることができない。もどかしかった。こんなんじゃ到底沖田に自分の意思を伝えることなんてできやしない。ちらりと見えた沖田は嘲笑していた。
いいから受けとれィ、そう言って金を押し付けてくる沖田にこの子は、無償の愛を知らないのだろうか。銀時は思った。愛は無償のものなのだ。何かと引き換えに与えられる愛なんて愛じゃない。それを沖田に教えてやりたくてたまらなくなった。このこ以外が相手ならこんなおせっかい、やこうなんて絶対絶対思わないのに。


「じゃあ、いいよ」

銀時はそう言うと無理に握らされたお金を無造作にポケットにつっこんだ。それを見た沖田がにっこりと笑って腕を絡めてくる。
銀時は、とりあえずさし出された金を全部うけとることにした。そしてそれをびた一文使わないで自分のこの思いが沖田に全部真実として伝えることができたら、沖田が本当に自分が何の引き換えもなしの愛していることを知ったら、全部つっかえしてやろうと思いついたのだ。その時の沖田の表情を見るのが楽しみで銀時は今から1人胸をはやらせるのだった。


END

 

  タフィジカル 060127