部屋に入ったらそれはすぐに目についた。土方は舌打ちをして眉を顰める。ぼろぼろになったワイシャツ。頭が痛かった。ぎゅうとそれを握り締めて部屋を後にする。向かうのは沖田の部屋、だ。



「総悟また噛んだだろ」
「…しらねぇ」

そっけなく返事を返すと沖田はぷいとそっぽを向き足を三角に折り曲げて膝に顔を突っ込んだ。瞳をふせて唇噛んで金色の頭をぷるぷる震えさせている。明らかに怯えていて土方は怒る気がそげた。だけど甘やかしていたらいつまで経っても沖田が噛む癖をやめることはなくなってしまう。それはだめだと土方なりに思っているのだもう何年もこのままだったけれど。

「じゃあ何でこんなんなってんだ。お前以外に噛む馬鹿いねぇだろうが」
「……しらねぇ」

ワイシャツをぺしりと沖田の前に投げつけるようにして置いた。それは確かに今朝忙しくて慌てていて余計に1枚出してしまい仕舞うのが面倒くさくて床に置いていったワイシャツで、土方が部屋に帰ってきたら噛まれた痕がいくつもついていたのだ。どころどころやぶれてもいた。今朝そのワイシャツは、くしゃくしゃになっていはしたけれど噛み付かれた痕はついてなかったしっかり断言できる。

「しらねぇ、じゃねぇ。…総悟、顔あげろ」
「うー…」

土方が詰め寄った。沖田の前まで行ってしゃがみ込む総悟聞こえないのか、低い声で言う。そうしたら沖田がかぷと土方の服に噛みついてきた、袖の辺りをだ。手首に唇があたって土方はぞくりとした。沖田は噛み付きながらうーうー唸っている。土方は眉を顰めるとともにハァと溜息を吐いた。どうしてこんなに野生的なのか、他に自分を抑える術を知らないのか、呆れたように思った。噛んで自分のイラつき発散させるなんて幼稚園児以下だ。
沖田は気が立ってしょうがない時、不安な時、寂しい時、土方のそこら辺に脱ぎ散らかされている服を噛む。かぷかぷと咀嚼するみたいに。まだ小さい頃からその癖はあって、昔土方はその様子を見ながら飲み込みやしないかと心配だった事を覚えている。けれど置いてある服噛むくらいなら土方だってそうは怒りはしない。しかし沖田は服を噛んでもそれらの感情がおさまらなかった時、土方が今着ている服に噛みついてくるのだ。ぎゅう、と服を引っつかみながら、胸元でも袖でも裾でもズボンでもどこでも。それでもだめな時は土方自身に噛み付いてくる。手加減を知らない子供のように強く。


「いっ、てェなこのガキャ…」

噛まれている袖口をはがそうとでこをぐいぐい押していたら今度は手首の薄い肉を噛まれた。ぎりぎりと音がしそうなほど強くだ。思わず手が出そうになって土方はそれをぐっと堪える。叩いたら思い切り暴れられるか思い切り泣かれるかどちらかだどちらも今より良い状況とはいえない。

「噛みてぇんなら自分の腕でも噛んでろ!」
「…」
「ほら、離せ」

歯の間に指を突っ込んでどうにか離そうと土方は躍起になる。沖田はいやいやと顔を横に振った。泣きそうに眉寄せられてオイオイ泣きたいのはこっちだと思う。きっとくっきりと歯型がついてるに決まっている2、3日はこのままだ手首なんてうっかりしたら見えてしまうところ、噛み付かれてどうもできないなんて、あぁ情けないと土方は思う。
だけどもっと情けないのは。
はぁあ、と、土方は深く深く溜息を吐いた。

「…総悟」

ぴくん、と沖田の体がはねた。そのあんまりにも珍しい土方の柔らかな声音に。悲しげに濁りを帯びていた瞳がくりんと土方の方を上目に見上げる。ぱちぱちと幾度かまたたいた。土方は噛まれているのと反対の方の手で頭を撫でてやる。

「いいこいいこ」
「…」

さらさらと音を立てて髪が何度も土方の指の間を通っていく。くーん、沖田はそんな事言いはしなかったけれど後ろに効果音つけるならそんな感じだと思う。噛んでた歯を離すと沖田は土方の予想通りくっきり歯型がついているそこをぺろぺろと数回なめた。その後土方の胸板に顔をすりつける。嬉しそうに、満面の笑みで。
こうなる事を沖田はとても望んでいてそれを結局土方は与えてしまうのだ。土方はどっちにしろあぁ情けない、そう思うことになるのだった。


END

総悟は子犬みたいな感じで、お願いしまーす
(お願いしまーすじゃねぇよ何だよ子犬ってなんだよ結局土方甘いのかよ信じられないさいてー(とりあえず突っ込んでみました)) 

  上手なつけ 060311