あ、と、沖田は遠くの方を見て思った。

「(ひじかたさんだ…)」

土方が見えたのだ。その土方の横にはとても綺麗な女の人がいて、その人と土方が楽しそうに話しているのが見えて、沖田は目を細める。笑っていやがる、沖田はじぃと土方の方ばかりを見て土方を観察した結果思った。笑った顔も殴りたいほど男前だった嫌な感じ、沖田は思う。
てくてく、そして沖田は土方のところへと歩き出したのだ。だけれど沖田がそこに着く頃にはもう女の姿はいなくなっていた。走ればよかったと沖田は少しだけ思う。

「土方さんってさァ」
「うわ!」

急に後ろから声をかけられた土方が驚いたような声を出した。そしてその後いきなりうしろに立つんじゃねぇの、言われてごっつんと頭を拳骨で殴られる(でもあまり痛くないから効果はない)。沖田は殴られた頭を撫でながら続きを言った。

「あの女の事、好きなの?」
「アァ?好きじゃなかったら一緒にいねーっつの」
「…ふぅん」

腕を組んでジロと倍以上はある自分を偉そうに見上げながら言う沖田になーにえばってんだと頭を押す。けれどもすぐに首を振ってその手を振り払われてしまった。かっわいくねぇ、土方は心の中で思う。沖田はというと腕を組みながらじっくりと考えていた。


「(好きなんだ…)」

くりかえしてみるとつきん、と胸の辺りが痛んだ。
沖田は、ほんの少し前まで感情と言うものを理解できていなかった。誰に対しても同じ気持ちしかもてなかった。好きとか、嫌いとか、そう言った感情を誰に対しても抱かなかったのだ。それが最近少しずつ分かってきた、感じれるようになってきた。土方と一緒にいると楽しいしもっと一緒にいたいと思う離れると寂しい、これが、好きという奴なのではと沖田は思っていた。
だけれど沖田は、これまで何十人もの人間に会ってきたけれど好きだと思う人は、一緒にいたいと思う人、離れると寂しい人、そんな人間は、今のところ土方しかいなかった。しかし土方はそうではないらしいということも知っていてずるいと、思う。
自分と比べて土方はいつも色んな女の人といて、色んな女の人と楽しそうにお話をする。沖田は、土方以外の人間と一緒にいてもつまらなかった。笑うなんてとんでもないことだった。自分には土方1人しか好きな人いないのに土方には他にいっぱいいる、ずるい、ずるい上にむかつく、苛立って隣にいる土方の脛蹴飛ばしたい衝動を我慢する。
簡単に人を好きになれていいなぁ、羨ましいと、沖田は思った。
沖田だってもっと人間を好きになりたいと思っている。好きになれることほど幸福なことはない、嫌いなものが多いほど辛いことはない、分かっているけれど自分でどうすることもできない。あぁどうせなら、沖田は思いついた。

「(土方さんと俺以外の人間消えればいいのに)」

ちろ、ともう一度沖田は土方を見上げる。土方は隣で沖田がそんな物騒なこと考えてるとも知らずに呑気に鼻歌なんて歌っていた。苛立ちを押さえきれなかった沖田に脛蹴っ飛ばされるまで。


END

 

  のよに 060321