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こんなにハマるなんて思ってみもしなかった。 近藤は犬でも猫でも鳥でもなんでも気に入るととにかく色々なものを拾ってくる。時々里に出された可哀想な子供まで、だけれど土方はそれらに全く興味なんて持っていなかった。近藤は嬉しそうに土方に紹介をしてくるのだけれど土方は一瞥してあ、そう、それで感想は終わりだ。 しかし、今回は違った。近藤のトシ、トシ!ちょっと見てくれよ、そう呼ぶ声が聞こえて今度は何だ、また犬かそれとも猫かそれともガキか!?何か役に立つもの拾ってきてくんねぇかなぁそろそろ。ふわぁ、豪快にあくびして髪かきながら近藤のところまで行って、「それ」が目に入った瞬間土方の動きがピタ、と止まった。 「見てみろ、総悟ってんだ!かわいいだろ」 「……」 あ、そう。そこまで思ったのはいつもと同じだったのだけれど、そこからが全然違った。え、オイ、ちょ、エェエエ!?外見は大きく口開けたまま髪に手をやってる状態で静止していて驚いているのなんて全く分からなかったけれども土方はとても動揺していた。近藤の後ろに少し隠れるようにしてこちらをうかがっている、子供。ロリコンでもショタコンでもない(と自分では思っている)土方の胸に何かがキた。 「(かわいい!!)」 あぁ、そうだ。土方はこの今胸にキた何かが何かを思いついた。マヨネーズを思う気持ちに似ているのだ。あの、チューブを押してマヨネーズが先っぽから出てくる瞬間の高揚感、出てきている最中の絶妙なマヨネーズのうねり具合、うっとりとする。あれを思う気持ちにそっくりだ。きゅんっとする。もっと言うとぞくぞくもする。 「トシィ、そんな怖い顔で睨むなって。総悟が怖がってんだろ〜」 「え…」 いつの間にか怖い顔をしていたのか総悟の瞳が不安そうに揺れていた。 「あ、…すまん」 素直に謝ってしまって近藤も驚いていたようだけれど土方だって驚いていた。だけれど近藤が驚いた顔をしたのは一瞬だけで、人間の心情を悟ることに聡い近藤だ、土方が総悟をどう思っているのか悟ったのだろう、まぁ仲良くしてやってくれ、それだけ言って総悟を連れてそこを離れた。 土方は暫く、その格好のままそこでボケッと突っ立っていた。 「総悟」 「はぁい」 総悟が来てから数週間が経った。その間に2人はとても仲良くなっていた。呼ぶとぱたぱたとこちらに来る。なあに、土方さん。ちょこんと首を傾げる総悟。かーわーいーいー!率直に感想を申し上げるとそんな感じだ。別に用なんてなかったのだけれど無理に作る。適当に茶ァ持ってこい、なんて言ったらドスッと腹蹴られた。茶ァくらい自分でいれろィ!高いくせにドスの聞いた言葉がとどめだった。土方の目に涙が滲む。いや別に、傷ついてなんてないからね。 総悟が来てからというもの土方はとても真面目になってしまった。遊んでいた女とは手を切ったし喧嘩もほとんどやらなくなった。別にどちらも自ら決心とかしてやめたわけではない、それをしていてもそんなに楽しくなくなってしまったのだ。女といる時間があれば総悟といたいし喧嘩してる暇があれば総悟と稽古していたいと思うってうわァア、ちょっとこれやばいのではないですか、ペドなんとかって言うやつなんじゃないですか、ロリコンは流行っててショタコンも世に広がりつつあるけれどちょっ、ペドは、ペドはァア! 「ひじかたさぁん」 土方が違う世界にトリップしている間に総悟はどうもお茶をいれてきてくれたらしい。湯気の立った湯のみをはい、と差し出される。ほら本当はすごくすごくイイ子なの、この子。親ばかもいいとこ自分で突っ込みながら受け取ったお茶を啜った、瞬間、ぶっと吹いた。どこのティーですかこれ。味が半端じゃなくすごいことになっている。湯のみの中を見てみたら色も随分ドスの効いた色をしていらっしゃった。どう見ても通常のティーではござらない。総悟の方を見たらにやりと笑っていた。 「てっめェ総悟ォオ!!」 「へへっ」 へへっ、じゃねぇよ、へへっじゃ!へへっ、じゃねぇけど、カワイイんだよコノヤロー!! こんな具合によく悪戯もされたけれど土方は総悟を甘やかした。それはそれはとても甘やかした。一緒にお風呂に入って髪の毛洗ってやったり、同じ布団で寝る時寒がりのくせに構わず自分より総悟の方へ多く布団をかけてやったり、くちゃくちゃに脱ぎ捨てられた総悟の服に無意識に頬ずりしていてその後それを綺麗に畳んでおいたり、稽古の時自分か近藤以外の他の誰かに傷をつけられたらそいつのリンチ脳内で決定、そして稽古が終わればすぐさま遂行したり、ちょっとやばいくらいに甘やかしたってゆーかもう甘やかすとかそういう領域じゃないほど甘やかした。 だから余計に総悟はびっくりしてしまったのではないかと、思う。 免疫というのはとても大事なものだということだ。例えば毎日5分間、ランニングをしていれば急に10分間走れと言われたってそんなに辛くはない。けれど毎日走ってない奴が急に10分間走れと言われたらそれはそれはキツイだろうすぐ息切れしてしまうだろうそんな感じあれどんな感じ? 「総悟!!」 低い声だった、ヘマした門下生怒鳴りつける時のように。そうだ総悟に向かって怒鳴ったことなんてなかったから、必要以上にびっくん、と総悟の小さな体がはねた。こわごわと総悟が土方を見上げる。土方はこの顔に弱い。ほんとに弱い。フゥッ、と幼児の息に吹かれるだけでとんでく綿毛のように弱い。だけれどどんだけ強く吹いてもなかなか飛んでかない時々いる根性の座った綿毛のように土方も踏ん張った。 「何やってんだ」 「…」 静かな空間だった。土方の声だけが空気を震わせる。 「何やってんだって聞いてんだよ」 「…」 1歩、土方が総悟に近寄った。総悟も少しだけ、土方の1歩の距離と比べてあんまりに僅かにだけ後ろに下がる。1歩1歩土方は総悟にと近づいて、すぐに2人の距離はほんの少しだけになる。 「それには触るなって言われてんだろ」 こくん、と総悟が頷いてそれっきりうつむいた。総悟の傍には、刀。近藤のだった。絶対に触っちゃだめだぞ、近藤も土方も何度も総悟に言い聞かせた言葉だ。 「悪い子だ」 刀に興味があるのは分かる。総悟は、とても剣道が上手い。気を抜けば土方が1本とられそうだと思うほどに。上手いだけじゃない、気迫もある。相手をのみこむことのできる気迫だ。近藤も土方も何もずっと道場でのんびりと剣術教えていきたいわけじゃない。今のこの世の中、見据えている未来がある。それは、2人が見据えている未来は、決して今のように穏やかな日常ではない未来で刀も関わってくるだろうそうした時に総悟だけ仲間はずれにするつもりはない。相当な戦力になるのはどう考えても明確である。だけれども、今はまだ、今はまだ、土方はそう思いたかった。幼い内から刀に慣らしておいた方が大きくなって違和感なく刀を使うことができる、辛さが減る、そんなん少し考えれば分かる。まだ、まだ早いだろう、そう思っているのは土方のエゴだ、そう思いたいだけだ、それだって分かる。だけれど土方は自分の怒りをとめることができなかった。 ぐいっと総悟の小さな手をとる。パンッ、と、その手の甲を打った。 「っ…」 びっくん、と、本当に可哀想なほど総悟の体がはねて、瞳にたまっていた雫がぽたりと落ちる。ぽたぽたと、幾度も幾度も畳に染みをつくっていったけれども、土方は抱きしめたりなんてしてやらなかった。それが余計に悲しくて総悟は静かに涙を零し続ける。土方はぎゅうと抱きしめたいの堪えて、堪えて、手を離すと立ち上がった。 「この部屋でちょっと反省してろよお前」 できる限り冷たくそう言ってバンッとわざと大きく音を立ててドアを閉める。すたすたと歩いていって、角をまがったところで土方はすぐそこに座り込んだ。はぁああ、と、大きく溜息を吐く。 「嫌われたかな…」 呟いた後であぁあ何言ってんだ俺、俺は怒ってんだって、でもそう自分に言い聞かせている時点でもうだめだ、土方は思った。きっとすぐに我慢できなくなって総悟ォオ、叫びながら抱きしめることになるに決まっている。だけれどその時間がほんの少しでも後になるように土方は今すぐにでも総悟の元に行きたい自分の体を戒めた。 END |
| たまらない 060415 |