「どうせお前何にも感じねぇだろうが」

そんな言い方をする土方に沖田はびっくりした。あんまりにびっくりして声も出なかった。そのまま数秒時が過ぎて黙ったままの沖田を不審に思ったのか土方が沖田の方を見る。そうして見えた沖田に土方もびっくりした。

「おれだって」

沖田がいつも強気に吊り上げている眉を寄せて小生意気な事言う唇引き締めて傷ついたような表情をしていたのだ。呟くようにそう言って瞳を伏せる。今にも泣きそうだと土方は思った。沖田はそうしてまた呟くように続ける。

「感情くらいありまさァ」

人より大分鈍いけれど、刀ぶっさされたらきっと痛いだろうし土方や近藤が死ねばきっと悲しいだろうと思う、多分、予測でしかないけれどそういう想像は沖田だってする。それだけで十分じゃないかと、沖田は思う。
そりゃあ、そうだって、沖田は自嘲をした。何の躊躇いもなく人間殺せるようなやつ、感情ないと思われたって仕方がないどこかおかしいと思われたってしかたがない。だけど、誰になんと思われたってよかったけれど、土方にまでそんな風に扱われるのはとても耐えがたかった。胸が痛かった。忘れられているのが辛い。ねぇ俺だって俺だって、傷つくんでぃ昔はよく泣いていたのを土方は慰めていてくれたのに、それを忘れてしまったのかそれとも沖田が変わったと思っているのか、急に、沖田は、独りぼっちのような気がした。誰にも自分を分かってもらっていない、そんな思春期みたいなこと思ってしまった。
それっきり、2人はだんまりになってしまって、沖田の方が眉を顰めながら先に部屋を出た。そしてそのまま屯所からも出て行く。こんなところにいられない、沖田は思った。




「どうしてなきそうな顔しているの」
「っ…」

不意に声かけられて沖田はびくとする。表面には出していないつもりだった、泣きそうなのなんて。いつものナイスポーカーフェイスでいたつもりだったけれど、思って沖田は確認する。やっぱりずっとポーカーフェイスでいたと思う泣きそうな顔なんてしていない大体街中でそんな顔俺がする訳ねぇ、誰でェおかしな事言うの。ちらりと顔を上げるとまず銀髪が目に入った。

「あ、」

そうしてから顔を見る、瞳に映ったのは前から少しだけ気になっていた男、えぇと何だっけ名前は忘れた(というか聞いていない)のでまぁいいや思いながら沖田はじろじろとその男を見た。気になっていたのは本当に少しだけだけれど、(実際今会うまで忘れていた)池田屋に踏み込んだあの日、爆弾が誤作動してしまってもうどうもできないだろうと思って怪我することしていた覚悟を大分な無茶をして、命かけて、無駄にしてくれたことを沖田は覚えていた。そういうの、沖田は嫌いではなかった。けれどもだからってこの男と関わりを持ちたいとも思わなかったところが沖田のよいところだ。

「…」
「あれ?シカト?」
「…別に、泣きそうな顔なんてしてねぇです」

変な誤解されたままだと困るのでそれだけ言って沖田は足早にそこを去ろうとする。けれどがっしりと腕掴まれていた。むっとして振り払おうとしたけれど相手は存外に力が強い。

「気になるよ、かわいい子がそんな顔してたら」
「…ナンパは他でお願いしやす」

あ、ほら、あの子とかカワイイですぜィ、適当に目に入った女を指差す。だけど男はそちらは向かなかった。本当にカワイイのに、別にそんな言うほどではなかったけれど引っ込みがつかなくなった沖田は差した指下ろしながら小さい声で言う。

「悲しいなら泣けばいいのに」
「…」

知ったような口きくそいつに異様に腹が立った。いや、腹が立つはずだった。だけれど実際は、全く腹は立たなかった。どうしてだか沖田にも分からない、ただ思うのはこの人が人の並みから外れた人間だということが分かったからだと思う。同じ種類ばかりの人間に飽き飽きしていた自分のこれから言う言葉にどういう反応を返してくれるのか、興味があった。

「ねぇ俺ってそんなに感情ないように見えやす?」
「全然」

早い答えに意表をつかれる。きっぱりと、そう言ってくれたのが沖田は自分では分からなかったけれど嬉しいと思っていた。

「さっきだってすっごい泣きそうだったじゃない。感情丸出しで幼稚園児みたい」
「…」

何言ってんでィと思う。自分は、顔をほんの僅かにだって歪めさせていない、泣きそうな顔なんてちっともしていない。だけれど顔には全く出していなかったけれども本当は、泣きそうだったし泣きたかった。どうして分かったのか、それは沖田には分からないけれど沖田は感情を悟られるのを嫌いだった。泣いているとか怒っているとか他人に知られるのを恥だと思う、だけれど、この人相手ではそういうこと一切感じなかった。

「ようちえんじとか…失礼でさァ」

ふっと、笑った。笑った後で気付く、こんな風に笑えれる気分になっていたことに。
やばいなぁと思う。だってこんな気持ち初めてだった。きゅんっとする。恋とかそういうたぐいではなくて、胸があたたかくなった。さきほどまでの、ほんの数分前、この男と会うまでの自分からは考えられないほどおちついていた穏やかな気分になっていた。
ちら、と視線を男の方にやると目が合ってしまう。あわててそらそうと思ったのだけれどそらせれなかった。ってゆっか、そらしたくなかったのだと思う。吸い込まれそうなんてことを沖田は本気で思った。ってゆっか、吸い込まれたいと思う。
あぁ、沖田は心の中で呟いた。

「(このまま時がとまればいい)」

土方のこと考えるの面倒だと思う。このままこの人と見つめ合ったまま時が止まればいい、強く願ったけれどもそうはいかなかった。この人が土方さんだったら良いのに、強く思ったけれどそうはならなかった。確実に決められていたはずの先が、ずっと土方と一緒にいよう何があったって、そう思っていた沖田の先が、ほんの少し分からなくなった。


END

うちの銀さんって基本いい人でさむいな(コラ!!) 

  んだ未来 060416