「ひじかたさぁん…」

部屋が開かれて冷たい空気を感じたのと共に鼻声で名前を呼ばれた。ぐすっ、続けて情けない声が聞こえてくる。土方は何の反応も返さなかった。寝た振りを決め込む。ぐす、もう1度鼻をならすとずるずると枕を引きずりながら沖田が部屋の中に入ってきた。

「ひっく、う、」

そして泣きながら布団の中にもぐりこんでくる。土方は、すぐに寝返りをうって沖田に背を向けた。それに一際大きな嗚咽をもらされて、背中にぎゅうとひっついてこられる。着物が湿った感覚を背中に感じた。あぁもうウゼェなァ、眠気はすっかり覚めてしまったけれど構うのが面倒臭くて土方はシカトをする。

「ひじかたさん…」

もう一度鼻声で名を呼ばれた。そのひどい声に可哀想だなって確かに思ったくせに放っとけば泣き疲れて寝るだろとも思ってやはり土方は黙っていた。冷たいなぁと自分で思う。
自分が今ここで、沖田の方を向いてぎゅっと抱きしめて涙舐めてやって何があったんだって、大丈夫かって、優しい声かけてやったら沖田はすぐにでも泣き止んできっと今沖田の中に居座っているであろう恐怖や焦燥感、不安や焦りなんかが吹き飛んでいくんだと思う。今すぐに沖田のそれを取り除いてやれるのは土方しかいない。だけれどそれを沖田に与えてやるのはなんだか少しもったいないように思ってしまった。もう少しそれを感じていろ、なんて、冷たく思ってしまう。それを感じている時の沖田はかわいい。そんなこと思っている自分への嫌悪感は知らんふりして土方は寝たふりを続けていた。
今沖田の中に渦巻いている感情を考えると、今沖田がそれを感じて不安で不安でたまらないのだと思うと、あんまりに可哀想でだけれど普段では感じれないほどの高揚感が土方を支配した。


「う、う、」

沖田は泣き続けている。普段の沖田からは想像もつかないだろう、服ひっつかんで声押し殺すこともせず泣いてるなんて。きっと今の沖田を隊士達が見たら本物の沖田だとはにわかに信じてもらえないだろうなと土方は思う。そっくりさんだと思われる確率98%だ、いや明確な計算した訳じゃない適当だけどね。



「ん、んくっ…う、」

沖田が泣きながら、土方の服の背中ら辺掴んでいた手を離し前に回してきた。わき腹の辺りを撫でられる。そして体と布団の間にも腕を突っ込まれてぎゅうっと、その細い体のどこからこんな力出るんだってほど強力に抱きつかれた。体が軋む音がなる。沖田は顔を背中にくっつけてすんすんとまだ泣いていた。そのまんま足も、土方の足と足の間にもぐりこませてくる。オイオイなぁにやってんですかァ〜?両足に力入れて股の方まで持っていこうとしている沖田の足を掴む。

「ん、やだ…」
「やだじゃねぇよ」
「土方さん!」

沖田の声に弾みがついた。あーあしまったと土方は思う。沖田はどれだけ冷たくてもいいから、土方からの反応が欲しいのだ。蔑みでも意地悪でも怒鳴り声でもなんでも。沖田は喜んでいる。がばっと起き上がると体の上に跨ってきた。重い。

「ひじかたさん…」
「…」

そして上半身を土方の方へ倒して耳元で、沖田が言った。土方はまただんまりだ。ぺろ、と、耳の舌を舐められる。ぺろぺろと音をたてながら(きっとわざとだ)耳の下から首筋にかけてをしつっこく舐められた。

「うぜぇっつの」

舐められるたびにぞくぞくといちいち反応を返してしまう体が憎らしい。ぐいっと沖田の頭をむこうにやって、ちらりと見えた沖田の顔で分かった。沖田の中で先ほどまで居座っていた負の感情が薄れていっているのが。あーあつまんねぇ、土方は本気でそう思う。随分とひねくれた性格してやがると自分で思った。もっと泣け、もっと苦しめもっと不安になれもっと辛い思いしろもっともっと。
おさえつけた頭そのまま布団に叩きつけてやった。ひひゃ、沖田が変な声あげる。そうしてひじかたさん、また名前を呼んだ何度目だ今日名前呼ぶのマジうぜぇ。沖田は布団にうつぶせている、土方はその後頭部をぎゅうと押してやった。びくっと、押した瞬間体がはねる。けれどそれからしばらくは静かにしていた。しかしその内苦しくなってきたのかばたばたと暴れ始める。十分に時間を置いてから土方は離した。

「ひ、じかたさん!こ、ころすき、なんですかぃ!」

はぁはぁ息を乱しながら、沖田がバシッと土方の肩らへんを叩いた。だけれど土方は無反応だ。それっきり、沖田が何をしても何を言っても土方は何にもしてくれなくって何にも言ってくれなくって沖田はぎゅうと土方に抱きついた。


END

似たような話がいっぱいありますねえへえへへ(きも) 

  の奴隷 060422