失礼そうな子だとは思っていた、銀時は不快感をぬぐいきれないまま思った。いや、少し訂正をする。失礼なことを考えていそうな子だと、思っていた。ただそれを、失礼なことを、口にはしないだろうと銀時は思っていたのだ。思っていたのに、銀時は冷めた目で沖田を見ながら思う。
この子は、沖田は、この世の中で口にして損なことと得なことが何かをちゃんとよく知っている頭で理解しているかどうかは知らないけれど。ということは、だ。俺にこれを伝えたということは、何か得なことがあるとでも思ったからだろうか。それとも別に得なことはないけれど損なこともないとか思っちゃってるのだろうか。この子にとって何が得なことで何が損なことは知らないけれど俺だってねそーゆーこと言われたら殴ったりしちゃう時があるのですよそれって別に損なことじゃないの?それとも想定の範囲外なの?




「人殺しの匂いがする」

もう1度、言った。結構怒りを露にしていたと銀時は思う、一般人が見たらちょっとびびっちゃうくらい、小学生が見たらちびっちゃうくらい。それなのに沖田は銀時が何の反応もかえさなかったからだろう、臆すことなく銀時が怒りを露にさせることになった言葉をもう1度きっぱりと言ってきたのだ。
怒りを逃すためふぅと、銀時は息を吐いた。こういう子は苦手だ、銀時は思う。子供の部分も大人の部分も兼ね備えているそしてどの場面でどちらを使えば上手くことが収まるか自分に優位に転じさせる事ができるのかよく知っている、下手に世間を知った大人より厄介なたちの子だ。
無視しようと思った。ふいっと顔そらせて一歩足を出したらギュウと胸元を掴まれた。だけれど構わず歩く。銀時の方が力が強いため自然沖田は引っ張られることになった。それでも沖田は服を離さない。何なのこの子?銀時は内心とても不愉快に思う。

「どうして忘れられたの?」

引き摺られながらそれでも構わずに沖田は言った、表情をほんの僅かにすら変えずに、顔の部位1つも動かすことなく本当に人形のように。銀時は沖田の方をちらりとも見ない。振り払うこともせずただ歩いた。絶対何の反応も返してやらないと思う。

「人殺したの」

だけれどもまた出たその言葉にピクと、体が反応をしてしまった。銀時は今さら、そのことについて誰に何を言われたって別に何とも思わないようになっていた。消したい過去だと思った時もあったし、なかったことにしようと思った時もあった、人に後ろ指さされるのが辛い時期もあった、だけれどもそれを全部受け止めてあれは自分の人生に必要な出来事だったのだと言い聞かせてそう思えるようになって傍目から見て他の誰ともなんら変わらぬ普通の人というポジションを手に入れることができてもう他人に何を言われたって自分の何が変わると思えない、そこまで思えるようになっていた。だけれど沖田にそれを言われると、妙に勘にさわっていらいらしてそう割り切れる前の幼い自分の頃に戻ってしまったように思う。

「どうして今それをやめて笑ってられるんですかィ」

沖田の言葉が、信じられないほど頭に血をめぐらせた。
こんな感覚久しぶりだった。どくりと、体の奥底からゆっくりと浮上し始めたのは確かな、殺意だ。だめだおかしくなる、深呼吸をしてだけれども沖田がじぃと銀時を見ていて銀時はそちらを一瞬だって見ていないのにどんな瞳でどんな想いで沖田が自分を見つめているのかたやすく想像できてしまって、芽生えはじめたそれに拍車をかけた。

「ずるい」

ガッ、と、胸倉掴んだのは反射的だった。感情で行動したのは久しぶりだ。喉元を強く拳で押さえつけるようにして力の限り服を掴む。少し体が浮くくらい力込めていたものだから大分苦しかったと思う。だけれど沖田は胸倉を掴まれた瞬間ふっと笑っていた。それはあぁ、やっぱりかとでも言いたげな、諦めにも似たような笑みだった。

「なぁんだ…」

すごくすごく、銀時には残念そうに見えた沖田の先ほどまで微塵にほど動かなかったその表情が。

「本当に忘れることができたのかと思った」

人を殺したことを、
言外に沖田はそう言ってふっと銀時から視線を外した。胸倉掴んだってことは、キレたってことは、忘れきれていないということ、気にしてないふりしてるだけで本当はまだ心の中では気にしているということ。沖田は銀時がいつもあまりにも飄々としているものだから人を殺めたという事実を、忘れられたのかと本気で思っていたのだ。だけれどもやはり違ったらしくて沖田は本当に本当に残念に思う。やはりもう逃げることはできない後戻りはできない、再度確認させられただけだった。それでも沖田はまだどこかでいつか忘れることができるのではないかと期待をしていた。
銀時はほんの僅かにだけ瞳を細めさせて、あぁそんな訳ないだろうと思う。忘れることができることなんて、あるはずがないと。そりゃこれから先どうなるかは分からない、もしかしたら本当に自分の記憶からすっぱり消えることがあるかもしれない、だけれど銀時はある時ある瞬間ふと悟ったのだ。消すことはできない、忘れることはできない、もう2度とそれをしてしまう前の自分にかえることはできないと、いうことを。そんなん不可能だということを。
絶対に教えてはやらないって、銀時は思った。期待するだけすればいい、忘れられるかもしれないなんて僅かな希望抱いておけばいい。それは意地悪からそう思うのか優しさからそう思うのか、それは分からない別に分からないままで良いと思う。



「やっぱり、無理ですよねェ。忘れるのなんて」

胸倉は掴まれたままなのに苦しそうな顔1つもせずに、ただただ残念そうに、沖田がポツリと呟いた。

「すいやせん、やなこと思い出させて」

沖田は一瞬だけ本当に申し訳なさそうに銀時の方を見る。だけれどすぐにそれは消してそしてでも、言葉を続けながらふっと笑った。何とも形容し辛い笑みだ。

「時々思い出した方がいいですよ」

おめぇに言われなくたって、

「(分かってますよ)」

つい口に出して言ってしまいそうになって、だけれどそれを抑えることのできた自分にホッとした。戻れている、いつもの自分に。そこで漸く銀時は胸倉を離してやった。そしてすぐに沖田から離れる。あぁ、まだまだ俺ってコドモだったんだなんて頭かきながら。


END

 

  レメント 060429