衝動を、抑えきれなくなる時がある。
沖田にとって必要ないのだ。近藤と土方以外の人間は、邪魔もの以外の何ものでもない。
沖田はとても物騒な想像を毎日1度はする。妄想と言ってもいいかもしれない目の前に現れるものを刀でだれかれ構わずぶったぎる。あぁだれかれ構わずなんて言ってももちろん土方と近藤以外だ。それとうさぎは残しておいてやろうと思う、かわいいから。
だけれどもそりゃ沖田だっていつもは考えないようにしている。あんまりにも自分勝手すぎるのは、非現実的で非道徳的なのは、沖田だって分かっているつもりだ。しかし沖田は自分の描くその理想の世界を作れる力が自分にはあると思っていて、時々、ふっとした瞬間、それをしてしまおうかと思う時がある。だってそれを実行しなければどうして自分にそれができる力があるのか説明がつかないなんて生意気にも理論を振りかざして。

とにかく土方と近藤と自分以外の人間すべて死んでしまえばいい、ことあるごとに沖田はそう思うわけだ。
ちらりと2人の方を見たら、きゅうと胸が締め付けられるように痛むのを感じた。ただ、隊士と会話をしているだけだ。下っ端の隊士名前も知らないような、だけれどそれだけで沖田の中に渦巻くのは嫉妬なんてかわいらしいものじゃない、殺意だ。沖田は目をそらし壁にもたれかかって冷えた瞳で床を見つめる。どくんどくんと自分の心臓の音がそこに手をやったというわけでもないのに妙に聞こえてきた。
なんてがきなんだろう、思っている沖田だって。もうあの頃のままじゃないのもしっている、俺以外の人を見て欲しくない俺以外の人としゃべってほしくない俺を1番に優先してなんて俺を1番に大切に思ってなんて、絶対に不可能なことだって分かっている。だけれどそれを望んでしまうのをやめることがどうしてもできない。そして現実見せられて傷つく、それだけだ。






沖田の妄想が現実になったのは、土方と女が抱き合っているところを見たことによってだった。

そんなん今まで何度も見ていて、見慣れているはずだった。だけれども今日に限ってふらっ、と、それが、目に入った瞬間、あんまりにもあっさりと、簡単に、箍は外れてしまったのだ。今までもっていたのが奇跡のように軽く。もう少し頑丈にできていてくれたらよかったのに、沖田は他人事のように思った。だけどその事の大きさに比べて箍はあまりにももろすぎた。チャキ、小さな音をたてて鍔が鞘から離れる。スラリと目に止まらぬ速さで銀色の鈍い光が姿をあらわす。見えたのはきっと一閃、いやそれすら見慣れていない女の瞳にはうつらなかったかもしれない。それは女の首に向かって一直線に、走った。土方の刀を抜く音が聞こえるだけれど間に合わない、沖田はふっと笑みを浮かべる俺の方が速い。記念すべき1人目だ、どうせあとみんな死ぬんだからいいだろィ、語るように沖田は思った。



確実に、
しとめたと、
沖田は思っていた。
だけれど慣れた感触は手に伝わってこなくて、刀は首から1ミリしか離れていないところでだけれど皮膚を少しも傷つけることなくぴたりと止まっている。土方が止めたのかと沖田は思った。沖田は確実に土方が抜くのより自分が斬る方が早いと思っていたけれど火事場のくそ力とかなんとかいうヤツで、土方の身体能力が、技量が、一瞬だけ自分を超えたのではないかなんて。
しかしそれは違った。
沖田の手が、沖田の意思で、止めていたのだ。

「(なぁんでぇ…)」

せっかく、理想の世界に1歩近づくことができるところだったのに。何で怖気づいたんだ、沖田は根性無しの自分を責める。だけれど沖田はよかったとも思っていた。きっと斬っていたら後悔していた。あぁついにやってしまったのかと思ってしかしその現実を受け止めれるほどきっと沖田はこの世界が嫌いではなかった、はずだ。

だけれど女は気を失っているみたいで、沖田はそのもろさに腹が立つ。土方はちゃんと女の体をしっかりと受け止めていて、それが沖田を傷つかせて怒らせた。なんでェ、刀突きつけられたくらいで、沖田は思う。そしてちらりと土方の様子をうかがってみた。土方は、すごくすごく怒っているようだった。こんなに怒ってるの見るの初めてかもしれない、沖田はぼんやりと土方を見つめる。土方はとても怒っていたけれど、沖田はそれが気に入らなかった。沖田としてはよくとどまったと、褒めて欲しかったのだ。

「沖田…どういうつもりだ」
「べつに。どうってこたァねぇよ」
「どうってこたねェだと?」

声が半端なく低い。いつもだったらビクンと体がはねていただろう、だけれど今日は違った。妙に強気な自分がいる。怒っている土方を冷静に、冷えた目で、見つめれている自分がいる。何怒ってんの馬鹿みたい、嘲笑できる勢いだ。

「邪魔だっただけでさァ」
「邪魔?」

あぁ仕方ないかと、沖田はふぅと息を吐く。ずっと何年もの間内緒にしていた秘密。それを今、沖田は教えてやることにした。

「俺はねぇ土方さんと近藤さん以外の人間みんな死ねばいいって思ってんでさァ」
「…」

流石にびっくりしたように土方が目を見開いていた。いつもより瞳孔が開いている、これヤバイんじゃないのこの人死ぬんじゃないの、思っていたらガッと髪を引っつかまれた。それがとても不愉快だった、沖田は眉を寄せる。

「何…言ってんだよおめぇ」

沖田が本気なのが分かったからだろう、土方はおかしいものでも見るかのように沖田の方を見ていた。沖田はその視線をめいっぱい受けながら笑う。確かにこんなこと考えるのおかしいよ自分でも分かっているでも俺をおかしくさせたのは誰だ?おめぇじゃねぇかお前がこんな汚ねぇ感情俺に生みださせたんだよお前のその優しさがあたたかさが俺に嫉妬と殺意という醜い感情覚えさせたんだ。沖田は土方を睨む。原因にほんの数パーセントだけど、あんただって含まれてんだと。

「どっちにしたって殺さなかったんだから、いいだろィ」

ガッ、と、音がなったかと思ったら目の前がちかちかした。ぶん殴られたらしい、土方に。沖田は驚いた。土方に拳で殴られたのなんて初めてだった。

「いい加減にしろ」

ハァ、冷たく溜息を吐かれる。それだけで自分がどれほど傷ついているのかどれほど胸を痛めているのかどれほど泣きたくなるのかどれほど息がし辛くなるのかどれほど立っているのが困難になるのか、きっと土方はほんの少しだって分かっていない。だからそんな冷たい態度とれるんだ。沖田はつらそうに眉を顰めた。ねぇ俺は、その女の何十倍もアンタのこと愛しててアンタに愛されたいって思っててアンタに抱きしめられたいって思っててアンタのこと必要としている。言葉に出せば、同情引いてあわれっぽくすがれば、少しは場はおさまるかもしれないだけれど沖田はそうはしなかった。ただやっぱり殺しておけばよかったと強く強く後悔をした。


END

 

  にのこるは 060430