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先ほどから聞こえてくる自分の名前を沖田はずっと無視していた。可也遠くにいるはずなのにこんな所にまで聞こえてくるのは余程大きな声で叫んでいるからなのだろう。近所迷惑、そう思って沖田は布団を被りなおした。それでもまだ聞こえてきうるさいなぁ、と心の中で呟く。そして今自分を呼んでいる人からこそっと盗ってきた煙草とライタをポケットから出して見てみた。これと自分がいないだけでその人の機嫌は面白いほど悪くなる。沖田は何だか笑いたくなった。 呼びかける声がだんだんと近くなってくる。此処は勤務時間が終わるまでは見つからない場所の、はず。けれども沖田は隠れるかのようにもう一度布団を被りなおし奥の方へ潜る。布団からは煙草の匂いがした。余り好きではない、けれども安心する 匂い。すん、とその匂いを思い切り嗅いで沖田はもっと小さくなるよう丸まった。布団の中は暖かくて気持ち良くて煙草のあの人を思わせる匂いで溢れていて。足音と気配は近づいているのに叫ぶあの人の声がどんどんと遠くなっていく。あれと思う間もなく沖田は眠りの世界へと入っていった。 「ったくよォ、何処に居やがんだあのば、」 スパンッと障子が景気良く大きくなる音で沖田は目を覚ました。ほんの一瞬何だと思いけれどその音とほぼ同時に聞こえてきた土方の不機嫌そうな声に見つかってしまったか、と沖田は内心舌打ちをした。そして叱られると思い布団の奥の方へと潜る。けれども土方は障子を開けたまま部屋の中に入ってこようとしなかった。驚いている気配が伝わってくる。いやこれは、驚いているというより怒りと呆れとの入り混じった気配、だ。 「お前…」 ハァーと深く溜息を吐いた土方に沖田は怒鳴られる、と身を硬くする。けれどそれすら面倒臭くなるほど疲れていたのだろう。土方は脱力したかのように手のひらを額の横側にあて力無く沖田の頭を足で小突きながら言った。 「お前が居なきゃ下りない重要な書類があんだよ…さっきからずっと探してたっつーのに何俺の部屋でご丁寧に布団まで敷いて寛いでやがんだよコラ」 「そんなのしらん」 けれどもそれに対する沖田の態度は余りにも怒気を煽るもので。しかしコイツ相手に怒ったら負けだと土方は自身を落ち着かせた。 「取り敢えず起きろコノヤロー」 ドスンとあぐらをかき床に手をついて後ろに凭れながら土方が鬱陶しそうに言った。それを横目で見つつ沖田はコロンと土方がいる方の反対側に寝返りを打ち小さな声で呟く。 「ヤでさァー眠い」 「おまッ…!」 布団から顔を出しもしないで悪態をつく沖田に土方はとうとうキレた。バッと布団を剥ぎ取ってやろうとするがけれどもぎゅうぎゅうと沖田がキツく布団を握っていて沖田と布団は離れない。いつもやる気無くボケッとしている癖にこういう時にだけフルに力を使うのが腹立たしい。構うのも鬱陶しくなってバッと布団を勢いよく離してやるとボトンと真っ白なシーツの上にいつの間にか姿を消していた自分のライタと煙草が落ちてきた。 「…………」 「あーあ…」 驚きとそれより激しい苛立ちで声も出ない沖田に悪びれもなく沖田が呟く。それが余計土方の怒りを煽りガッと土方は沖田の胸倉を掴んだ。 「あーあ、じゃ、ねェよ…」 この野郎、と拳を振り上げ脅すけれども沖田はビクリともしない。本気で殴ってやろうと思ったのだけれどもくりくりの大きい目で見られたら手を出せない。ハァアと自分の情けなさとどれもこれも自分の怒りを煽る行動ばかりとる沖田に大きな溜息を吐いて結局土方は今日も沖田を殴れず胸倉を掴んでいた手を乱暴に離した。 「あぁもう本当お前ぶっ飛ばしてぇ…」 「やだァ、土方さん怖ァい〜そんなしかめっ面してるとモテませんぜ」 あくまで態度を改めようとしない沖田をギロリと一つ睨んでから土方は立ち上がり言った。 「もういい、お前なんてもう知らん」 そう言って部屋を出て行こうとする土方を沖田はチラリと見てそれからスタスタと歩を進める長い足に絡みついた。ぎゅうとしがみ付いたのだ。 「土方さんも此処にいれば良いでさァ」 土方が何か言うよりかも早く沖田が言った。 「馬鹿言ってんじゃねえよ離せ」 「いやだ」 「……………」 無理矢理引っぺがしてやろうと服を掴むが やっぱり、やめた。もういいやと思った。重要な書類も煙草もとられたのもこの後約束していた接待ももうどうでもいいやと思った。泣き出しそうな沖田の顔が 目に入ったから。 END |
| あ、うん、寂しかったらしいですよ、えぇ、ハハハ 寂しがり屋のライオン 041130 |