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「おっかしいなァ」 「………」 ご丁寧に数えてはいないが今日もう何度も、少なくとも数十回は耳にした沖田のその言葉に土方が律儀に言葉を返すはずがなくそれは沖田の独り言で終わった。しかしそれが沖田は気に入らなかったらしく少し顔を顰めて土方を横目で見た。睨んでいるようにも見える。 「ねぇ、土方さん。おかしいよねえ、…ねえ」 「………」 うんともすんとも言わない土方にけれども次は気にしなかったのか前を向きなおしうん、と頷きながらもう一度言った。 「おかしいよ」 よし、ともう一度頷き沖田がまた言った。 「絶対、おかしい」 「うるせぇよいいから行けよ早く」 「……」 痺れを切らし土方は苛立ちを隠しもせずトントンと人差し指で机を叩きながら言った。次は沖田が黙る番だった。机をトントンしているとその内指が疲れて面倒くさくなってでも途中でやめるのも格好悪くてやめれなくて結局もっと苛立つ事になるんだよなァそれでも土方さん苛立つ度にしてんだから本当馬鹿だ と頭の中で無理矢理話題転換をする。けれどほら、ともう一度急かされだってと唇を尖らせた。そしてぶらぶらと足を揺らしながら白々しく言い逃れを口にする。 「俺、毎晩歯磨きしてたのに」 「その後菓子食うのが悪いんじゃねェか」 「朝だってしてたのに」 「それはあんまり意味ねぇんだってよ」 「でも、何分もかけて毎日丁寧に磨いてたんですぜィ!」 「なっちまったモンはしょうがねぇだろ」 さっきまで無視していた癖にいちいち文句をつけてくる土方に沖田は少しむ、とし駄々を捏ねた。 「なのに虫歯なんておかしい。おかしいから、行かない」 「ばぁか。行っても痛い思いすっけど、行かなかったらもっと痛い思いする事になるんだぜ」 「俺は、痛いのが嫌なんじゃなくて歯医者に行くのがいやなんですぅー」 「んだよ怖いのかよガキじゃん」 「ガキでさァ」 「………」 いつもはガキ扱いすると負けず嫌いの性格が出、おういいよやったろうじゃん、と言う事になるのだが余程歯医者が怖いのか意地を張り通す気なのかは知らないが沖田はすんなりと肯定し土方を黙らせた。 「兎に角、いいから、早く行け」 「いいんです、俺。虫歯と共同生活楽しみますァ」 「……まぁ俺も本当は別にどうでも良いんだけど」 「じゃあ良いじゃん!帰ろうよ」 「お前の親に頼まれてんだよ」 「俺の親と俺とどっちが大事なんですかィ」 「別に。どっちも大事じゃない」 「じゃあ、いいよ帰ろうよ」 「約束破るのは嫌いなんだよ」 「じゃあ約束なんてしなけりゃ良いんだ」 「はいはい。もうしないから取り合えず行こう」 そう言って土方はぐいと腕を掴み無理矢理立たせた。こうなったら、実力行使だ。ぐいぐいと教室のドアまで連れてくるがそこまできて沖田は抵抗をした。ドアの横にある柱を引っつかんだのだ。ぎゅうぎゅうと強く掴んでい離そうとしない。舌打ちをして柱に絡む腕を外そうとするがなかなか離れない。それどころかヒュッと蹴りまで入れられ当たりはしなかったが土方の機嫌が悪くなった。 「(っ…こいつ…!)」 暴れる沖田に本当に鳩尾に一発食らわせてやりたいと思う。いやけれどもコイツが簡単に鳩尾を許すはずがない。殴り合いになって怪我して教室の机や椅子もバラバラになって片付けないといけなくなって、と、面倒な事になるに決まっているからそれはやはりダメだと土方は自分に言い聞かす。 「俺が、いやだっつってんの!無理矢理連れてくのは犯罪ですぜィ土方さん!」 「それが犯罪だったら世のお母さん皆犯罪者だよ!!」 「はぁ?意味わかんね」 「いやだからさ、ホラ、お母さんは皆子供を無理矢理歯医者に連れて行くでしょうって何でわざわざ突っ込みの説明してやらねぇといけねぇんだよ!」 「うるさい!突っ込み下手な土方さんに色々言われたくない!知らない!何も聞こえない!」 目を瞑り柱に腕を絡ませたまま器用に耳も塞いでもう知らないとそっぽを向く沖田に土方は目を細め眉間に皺を寄せた。本当にどうしてコイツは自分を苛立たせる事がこうも上手いのかと心中怒りを爆発させる。 「あーーもう…めんどくせェなァっ…」 このままでは沖田は梃子でも動かないだろう。けれどもどうせ、数日後には痛い痛いと言って結局は医者に行く破目になるに決まっている。それならば今日行ってしまった方が良い。土方は沖田の亜麻色の髪の毛を掴んだ。そのままぐい、と上を向かせて何すンだ、と訝しげに自分を見、眉を顰めている沖田の唇を、乱暴に塞いだ。驚きに開かれる瞳を無視してくちゅくちゅと口腔を弄る。 「ンンッっ、ん、ァッ、…ッ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」 巧みな舌遣いに初めは軽く抵抗しつつも甘い声を出していた沖田が急に目尻にじわりと涙を溜めじたばたと激しく暴れ始めた。虫歯のところを、強く舌で押されたのだ。重点的にそこだけをグリグリと刺激され走る激痛はとんでもないものだった。んーんーと沖田の悲鳴が土方の口の中に消えていく。 「ッッ〜〜っ、ンンンっっ!!!」 暴れる沖田をキツク抱き締める事で押さえ付けたっぷりと時間を置いてから、土方は唇を解放してやった。沖田がぜぇぜぇと息を荒くしながら涙目で頬を押さえ土方を睨んでいる。 「ひっ…でェっ…!酷い事すンなぁ土方さん!最低ッ!もっと行く気なくしやしたぜィ!!ぜっってぇ、行かねェ!!」 「っるせぇよ!お前が赤ちゃんみてぇに駄々捏ねるから悪ィんだろ!?」 悪態を吐き今にも殴りかかってきそうな様子の沖田に土方も凄い剣幕で怒鳴った。ビクリと沖田の肩が撥ねたのを良い事に土方はにやりと笑うと脅しとばかりにぐいと顎を掴んで言った。 「オラ、行かねぇっつーならもう一度やってやるぞ」 「やっ…!」 そう言ってもう一度口を近づけたら沖田は小さく声をあげて手の甲で唇を隠した。余程痛かったのだろう。沖田にしては珍しく弱気な態度だった。顎を離してやったら頬を少し膨らませて目線を斜め下に向けながら文句をつけてきた。 「らんぼうものー!俺が可愛くないんですかィ」 「うるせぇ。お前に比べたらまだゴリラの方が可愛げがある」 「ひっどー…」 言いながら沖田は虫歯が痛んだのだろう少しだけ顔を顰めた。痛いんだろ、と頬に手をあててやる。したらそこは熱を持ってて熱かった。沖田が気持ち良いと目を閉じて言った。 「自然に治ったり、しないかなァ」 「無理」 「土方さん、治してくれよ」 「む、り!」 「…………………」 「ンだよ」 「だって俺、歯医者嫌いだもん…」 「……」 次は甘える作戦なのかしおらしくしょぼくれた様子で言ってくる沖田に作戦なのか、と思ったのも束の間可愛らしいと思ってしまう。こういう時、コイツの整った可愛いい顔は本当にずるいと思う。少し伏せ目がちに俯くだけで怒りは消沈。文句を言う気も起こらなくなってしまう。それどころか泣きやしないかと焦ってしまうのだ。 「は、歯医者行ったら…菓子とか買ってやるから、な…!行けよ、な!な!」 「……おかしかぁ」 強く言う気が引けてまるで幼児を相手にするような譲歩に土方は自分で何言ってんだと突っ込んだが沖田は満更でもなかったのかポツリと呟いた。 「あとホラ!お前クリスマスバージョンのミッキーのぬいぐるみ欲しいとか言ってたじゃん!あれも買ってやるよ…な!」 「……ミッキーねェ…」 呟いた後、チラと沖田が土方を見た。 「…ナンだよ…」 じ、と睨むように見上げてくるものだから少し脅すように言ったらフッと沖田が笑った。何だと思ったら口に手をあてからクツクツ笑っている。おいどうした、と肩を揺すれば堪えきれないといった感じで沖田が噴出した。 「あっはは!おっもしろ!土方さん、おっかしーっ!!」 けたけたと笑う沖田に顔を顰める土方。ぴたりと笑うのを止めるとけれどもまだ唇の端を上げながら沖田が言った。 「俺が本気で歯医者嫌がると思ったんですかィ?」 「っおま、ッ!?」 「かっわいいなぁ、騙されちゃって」 やはり一発殴っておこう、と右ストレートを繰り出すがあっさりと避けられ逆に腕を掴まれて無理矢理組まされた。 「ほら、行こ。ついてきてくれるんでしょ」 そう言って歩を進める沖田に釈然としない気持ちを弄びつつ取り合えず行ってくれるのなら良しとするかと土方は自分の怒りを抑えた。こいつにからかわれるのもいつもの事だと、思って。 「(なんて、なー)」 横で不機嫌そうに歩く土方を盗み見て沖田はぺロと心の中で舌を出した。絶対絶対歯医者なんて行く気なかったのだけれど(だって歯医者はおかしい、と沖田は思っていた。歯を削ったりするなんて考えられない!と。あの耳を裂くような音は10分も聞き続けたら確実に死ねると沖田は幼い頃から思っていた。)、土方にあそこまで頼まれて嫌だと言えるほど土方を嫌っていない沖田はけれども素直に「行く」なんて言えなくて。変な意地の張り方をしてしまったのだ。 「(また土方さんに嫌われちゃったかな…)」 僅かな不安を感じた沖田は組んでいる腕にギュと力を込めた。 END |
| 優しい戯言 041203 |