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避けようのない勝負なことは分かっていた。なんとなくだけだけれど。 それでも何かっていうと理由つけて先延ばしにしていたのは逃げたかっただけだ。もしかしたら白黒つくのが怖かったのかもしれない。思って銀時は自嘲した。怖いなんてここ数年感じたことなかったのになぁと。 沖田は、銀時に忘れたことを思い出させる存在だった。考えないようにしていることを、今では何の不自由もなく考えずにいられたことを、考えさせられる存在だった。銀時は沖田が現れる前はそんな存在の人物が現れるのを恐れていたけれど、なかなかどうしてそんな存在がいるのも悪くはない。銀時は沖田のことが好きだった。それもまたやりたくない理由に含まれるのかもしれない。銀時は諦め悪くやはりやりたくないなぁと銀時とは相反してやる気満々な沖田の方を見る。 「手加減は、なしでお願いしやすね」 「…手加減なんてしたら銀さん死んじゃうじゃんよ」 冗談めかしていう銀時に沖田は少しも笑うことなく無表情のまま、シュッと刀を投げた。そのボロっちィのじゃ割りに合わねぇでしょう、どうやら随分とこちらの気を使ってくださっているようだ。渡された刀は兼定で、いーの使ってんじゃーん、言ったら土方さんからパクってきやしたとあっさり言われる。あれこれもしかして壊したら弁償?嫌な汗が流れたところで構えてくだせぇと、やる気満々な沖田が殺気を抑えながら言った。 やれやれ仕方ねぇ、ふぅと銀時は息を吐く。やるなら本気でやらないと、本当に死ぬことになるそれはまだちょっとご遠慮したかったので銀時は1度、瞳を閉じた。今の自分を忘れるためだ。万事屋やってること隣にヘドロが住んでいること新八や神楽なんてまた厄介な荷物かかえていることここ最近人を斬っていないこと坂田銀時なこと全部、忘れるために。次に瞳を開けた時はただ沖田を傷つけるだけの為に動けれるようになる為に。 キンッ、と、聞きなれた音が耳についた。刀の吹っ飛ぶ音だ。目の前で刀が振り上げられて沖田の背に冷や汗がたれた。見えたのが土方の、兼定なのが妙に腹立った土方に負けているようで。すぐに受け止めようと刀握り締めようとしてやっと気付く。あぁ吹っ飛ばされたのは俺の刀で、即ち俺の、 「…ちぇっ」 なァんでェ、沖田は悔しそうにそう言った。 沖田の鼻先ではビタリと刀がとまっている。あの速さで振り下ろしておいてこの寸止めができるのはどうなの、マジで斬られるってぜってぇ思ったのに、だけどここまで完璧に差ァつけられるとなぁと、沖田は思った。負けたのなんて数年ぶりなのにいやに気分がスッキリとしている。そこで漸く沖田は銀時の方を見てみた。感情はよみとれない。ただにっこりと、笑っていた。いつもの笑い顔だ。 「残念でした〜」 そうとだけ言って、銀時は後ろを向いた。それじゃぁね、刀かってにとってっちゃだめだよ、余裕ぶって注意してみる。沖田は小さくだけ笑った。何も、勝ちを望んで臨んだ勝負じゃない。満足できる結果が得られたのが嬉しかったのだ。ただ銀時の方は違った。負けるわけにはいかないと、思っていた。沖田は完璧な差を見せ付けられたと思っていたけれども、本当は違う。内心銀時は冷や汗垂れ流していた。 「(まさに、)」 年の功ってやつだったな、と、銀時は思う。そして沖田は全く気付いてなんていないだろうけれど、銀時がぎりぎり気付かせないようにしたのだけれど、勝負は紙一重だった。沖田があと5年、いや、3年でも早く生まれていたならきっと自分は負けていた。末恐ろしいと、銀時は思う。沖田はまだまだ上手くなる。もうあとは衰えていくだけの自分とは違う、成長過程だった。銀時から見ればまだ下ろされる刀に僅かな隙があったけれども、その内そんなの消え去るだろう。誰にも避けようのない一手、避けられない一手、数年後の沖田はそれを手に入れることができると断言できる。そしてその時また自分とガチンコ勝負したなら、今以上の歴然の差をつけて自分が負けるに決まっている。あーあ、と、銀時は少しだけ悔しくなっただって今まで1度も「負け」を確信した相手なんていなかったのだ。だけど、ふっと、可哀想になった。だって、そんなに人を殺すの上手になってどうするんだ、って。きっといつか、今では想像のつかない程の後悔をすることになる。銀時は知っていた。あぁ、あぁ、可哀想だ。 いや、これは。 「(負け惜しみ)」 そういう事にしておこうと銀時は思う。同情なんて、この子相手にはする方が可哀想だそうに決まっている。だけれど角を曲がる寸前、銀時は沖田がこちらを向いていないことを気配で確認してからチラリと沖田を盗み見た。瞬間激しく胸に感じたのが何かなんて、知る必要はないと思い込むことにした。 END |
| しあわせのおと 061029 |