トントントントンという小気味いい音で土方は目が覚めた。隣を見るとアホ面で(と言いたいがすこぶる可愛らしい顔だった事を土方は否めない)寝こけていた沖田の姿がなくなっており顔を顰める。そしてそのまままだハッキリとしない頭で起き上がりボリボリと頭を掻いた。大きく欠伸をした後音のする方を見るとピンク色のエプロンをつけた沖田が台所に立っているのが目に映る。

「……」

げ、何してんだまた俺を抹殺する為のアイテムでも拵えてるのかと失礼なけれどもいつもなら強ち間違ってはいない事を思いしかしその後あぁそうそうそういえばコイツ料理上手だったんだと思い出した。久しく料理をする姿を見ていなかったので忘れていた。好きこそ物の上手なれと言うが実際沖田は好きだから上手なのか上手だから好きなのかは知らないが料理を作る事が好きでもあった。ニコニコ笑って、時々鼻歌まで歌いながら作っている時は少し引くが好きなことがあるのは良い事だ。趣味が人斬り、では、余りに穏やかではないじゃないか。起きたのが分かったのかトントンと言う音が止まりくるりと沖田がこちらを見た。

「土方さん起きたんですかィ」
「あぁ…」
「オハヨーゴザイマスモウスコシデアサゴハンデキマスヨ」
「いや何でカタコトなの」
「何だかこういうの、新妻みたいじゃん?新妻フェチな土方さんに襲われないよう余り欲をそそらないと思われるカタコトで言ってみマシタ」
「…襲うかよバーカ」

呆れたようにそう言ってもう一度ゴロリと横になる。何でもないような態度をとったが実は土方は沖田が料理をしている姿が好きだった。チラリと後ろを見沖田を覗き見る。フリフリのピンク色のエプロンが本当によく、似合っていると思う。トントンと野菜を切る包丁の音。ふんわりと漂ってくる良い匂いは正直土方の好みにピッタリとはまる。こういう朝の雰囲気は嫌いではない。そう、とんとん、と足でリズムを取りながら料理をしている後ろ姿に欲を覚えない訳ではない、のだ。後ろから抱き締めて甘い髪の匂いを嗅いで細い腰まで手を回して。そのままシンクの上に押し倒して後ろから突いてやるのも悪くない。とそこまで思って土方はピタリと思考を止めた。

「(あーアイツの言った通りになってら)」

きっと普通に「朝御飯がもうすぐできますからね」と言われていたらドキとしただろう自分と余りに沖田の思い通りになっているのに腹が立った。良い加減、アイツの愛らしい顔と仕草に慣れなければと思うが慣れるどころか最近では意味不明の行動すら愛しく思えてきてしまっている。

「ほらー助平な土方さん!できやしたぜ」
「誰が助平だコラ」

悪態をつきながら顔を上げると近年滅多に見れるものではないにこりと可愛らしく笑っている沖田の顔が見えてもう何でも良くなってしまった。そうそうこの顔が本当に可愛いんだよ、と土方は余り素直に喜べずに思った。素直に喜べなかったのはそう。可愛いと思っているのを認めたくないと言う変な意地と、その笑顔を齎したのが料理だって事なせいだ。簡単に言ってしまえば料理に嫉妬していたと言う、こと。

とん、と穏やかに机の上にできた料理を置いて沖田はエプロンを外してから土方の向かい側に座った。
ところで、何でもマヨネーズをかけて食べる土方はけれども沖田の料理にだけはマヨネーズをかけない。一番初め、まだ沖田が年端もいかなかった頃初めて沖田が作ってくれた料理にマヨネーズをかけてしまった土方は一ヶ月間完全に沖田に口をきいて貰えなかった。本人は否定し続けているが実際の所それが原因だ。心では「は!別にアイツに無視されるくらい何でもないね!」と強気に思っているけれども身体は正直だった。決して沖田の料理にはマヨネーズをかけようとしない。勿論今日も冷蔵庫の中に山ほど入っているマヨネーズをとってつける事なく沖田の料理に箸をつけた。

「ん」

美味い。素直な感想がポロリと口から出てしまいそうになり土方はぐと口を噤んだ。いや美味いと言ってやれば良いのだが(そうだこの沖田の期待に満ちた目を見ろ!もろ自分の褒め言葉を心待ちにしている目じゃねぇか!と土方は自分に言った、けれどもその期待に満ちた目を見たからこそ土方は素直に美味しいと言ってやる気が引けたのだ(ひねくれものだからしょうがないと土方は思う))どうも釈然としない。冷静を装って土方はぼそりと言った。

「まぁまぁなんじゃ、ねーの」
「そっか」

そう呟いて沖田は期待に満ちた瞳を斜め下に移した。少し良心が痛み土方は食べる事に集中する。その内沖田ものろのろと箸をつけ口にそれを放り込んだ。うん、美味しいと独り言のように呟く沖田を見て土方は嘘吐けと 思った。今日の朝御飯のメニューは和食の定番ご飯と味噌汁と鯖の味噌煮込み。その鯖の味噌煮込み、味がとても、濃かった。自分は濃い口が好きだが沖田は薄口が好きだ。わざわざ自分に合わせて味付けしてくれたのだろう。証拠にほんの少し鯖を食っただけで白ご飯をがばがばと食っている。

こういうところが、本当に、どうしようもなく、むかつくのだ。

自分をおちょくる為にわざとしているのか、それとも素なのか。取り合えず今確かな事は沖田が悲しそうな顔をしている、と、言う事で。

「……………、いや、美味いに近いまぁまぁ、だけど」
「そっか」
「あぁ」

ふんわりと笑んだ沖田を見てふと自分も微笑ってから、土方はまた魚に箸をつけた。


END


うちの受けは大体料理下手なんですが総悟君は得意だと可愛いと思った/ってゆーかこの二人はどこにいるのかと、なー!/土方の部屋にキッチンついてるのか?(笑…い事じゃないです) 

 おふくろの味はい口 041215