沖田はきゅっと封筒を強く握り締めながら急ぎ足で近藤を探し回っていた。きょろきょろと辺りを見回しながら息をはずませている。だけれど近藤は見つからなくて、代わりに見つけた門弟に居場所を聞いてみれば出稽古に行っていると教えられる。なぁんだ、軽くショックを受けて、だけれど次に土方がこちらに来ているのが目に入った。少し悩んだ末仕方ねぇこの人でいいか、とにかく沖田は早く渡したくて、妥協をすることにした。

「あのね、土方さん、これ」
「なんだ?」

ぱたぱたと走り寄っていきはい、と土方に封筒を差し出す沖田。分厚いそれに土方はンだよまた変なモン持ってきやがってなんて言いながら受け取って、だけれど初めての沖田からの贈り物に(始めは近藤に渡されるものだったことも知らないで)内心にやつく。しかし笑っていられたのは少しの間だけだった。丁寧にのり付けされているのをぴりりとやぶって、中から出てきたものに目の玉見開くことになった。

「おまえ…」
「ん?」
「…これどうしたんだ?」
「どうしたって…」

喜ばれると思っていた沖田は土方の怒ったようにも聞こえる声に不安そうに眉を寄せる。封筒の中身は、お金だった。万札が数十枚。真っ当な仕事で小さな子供が稼いでこれる金額ではない。

「…稼いできたんでさァ」
「どうやって?」
「体売って」
「っ…」

あっさりと、沖田は何でもないことのように言ってみせた。実際沖田にとっては何でもないことで、何を吃驚することがあるのかと不思議に思う。土方が黙ったままだったので、ちらりと伺うように土方を見上げてみて、冷たく自分を見下ろしている瞳が見えて沖田はツキンと胸が痛むのを感じた。そしてあぁやっぱり怒っているのだと気付く。けれどどうして怒っているのか沖田には分からなくて、だけれどすごく怒っていることだけは分かって、沖田はどうしたら良いのか分からなくなってしまった。

「いらねぇよ、こんな金」

ポイ、と放られて沖田はショックを受ける。地面に落ちて砂をかぶる万札を見て自分自身を否定された気がした。

「…なんで?」
「わかんねぇのか?」

見下ろす土方の瞳に何が込められているか、沖田は知っていた。侮蔑だ。あぁやっぱりそうなのかと、沖田は思った。沖田も何となく薄々感づいてはいたのだ、身体を売るというのが汚いことだってことに。人に蔑まれる行為だってことに。しかし、沖田の武器はそれだけだった。唯一、人に構ってもらえるのがセックスしている時だけ、唯一、人の役に立てるのがそれで金を稼ぐことだけ。

「だって…」

だけど誰に蔑まれたって軽蔑されたって汚いって思われたって良かった。良かったはずだった。けれど、土方から向けられる侮蔑のこもった視線が耐えられないほど痛い。

「役にたちたかったんでさァ…」

きゅう、と、切なげに眉が寄せられる。

「だって、何でおれにそんなによくしてくれるんですかィ…なりゆき?剣道うまいから?それとも…可哀想だから?」

もうこの道場で暮らし始めて何ヶ月経ったか。何の違和感もなく今自分は、近藤や土方や山崎、その他大勢の気の良い仲間に囲まれて楽しく笑って、助けあって、生活しているけれど、生きているけれど、だけれどみんな、赤の他人なのだ。よく見知った人にさえ何度も裏切られた。少しのことじゃ人を信用できない、無償の優しさなんて存在しない、沖田が今まで生きてきて学んだことだ。だけれど優しさがこんなに心地良いものだとしって、それが例え偽りの優しさだとしてももしつくられた幸せだったのだとしても手放したくなくなってしまった。だけれど自分は、この人達に何にもしていなくて、何にもできなくて、いつ見放されるかとその事を考えると怖くてたまらなかった。つなぎとめておけれるだけの自信が、魅力が、自分にあるとは思えなかった。

「なんで、って」

多分なりゆきだった。しかしだからって誰でも良い訳ではなかったはずだ。何か通じるものがなければここまで入れ込む理由がない。けれど土方にそれを上手く言えるはずがなかった。

「か、」
「…」
「家族だからだろ…」

いぃいい意味わかんねェエエこんなんで納得してくれる訳ネェエエ、自然に出てきてしまった言葉に もうだめだって思って沖田の方を窺ってみる。
沖田は大きな目をさらに大きくしてぱちぱちとまたたきを繰り返していた。

「かぞく…?」
「…そう。だから、こんなもん必要ねーの」

土方は札束を鷲掴むとぶんっと思いっきり遠くへ投げた。沖田の汚さも遠くに投げられていった、気が沖田にはした。






END

 

ッドバイ 0801029