この世にあるたのしみはふたつ。
今の世の中楽しみなんてねーって奴大勢いるのだから随分と自分は贅沢だと思う。あ、そろそろ、一つ目の楽しみのお時間ですわ。沖田はとたとたとおぼつかない足取りで箪笥の方へ向かう。ガタカタと引き出しをひいて沖田はそれを手に取る。裾をまくって細く白い腕を露わにすると指をあてて血管を確かめた。慣れた手つきでそこに取り出した注射器ぶっさすとちゅうと音を立てて液を注入する。あ、ちょっとおおめにいれちった、ぞくん、とした、背筋が。一瞬だけまたやっちゃったって思ったけどそんなんすぐに消えてしまった。あーやばい、これは、ひさびさに、強烈、

「あーーっっ」

目の前がちかちかして五感がすべて正常に作動しなくなる。手足に力がはいらない。ばたんと沖田は畳に倒れこんだ。息がしにくい。でも呼吸することなんて今はどうでもいいくらいの気持ち良さが沖田を支配していた。すべてが消えさる。不安、後悔、さみしさ、悲しみ、痛み、気持ち悪さ、ぜんぶバイバイさせてくれる。

「はぁ、はあ、」

涎がくちのはしからこぼれた。そのまま顎を伝って畳にしみこむ。頭の中は真っ白だった。この感覚が素晴らしく気持ちが良い。沖田はしばらくそのまま畳に倒れこんでいた。至福の時間である。何分か、何十分かそうしているとがららと玄関の開く音がした。二つ目の楽しみのお時間らしい。だけど沖田はまだ動けれなくてその人がここまできてくれるのを待った。

「総悟」

名前を呼ばれる。敏感になっているからだはそれだけで勃起してしまいそうだった。ひじかたさん、声をだそうと口を開いたけれど掠れた吐息しかくちびるからはでなかった。

「馬鹿!!またやったのか!」

怒鳴られる。その後ぱちんっと頬を叩かれた。でも痛くない。むしろ、気持ちが良い。心地が良い。意識がとろんとしていてはっきりしない。だけど土方を欲していることだけはわかる。ほしくて、たまらない。力入らない腕をなんとか持ち上げて、土方の方へ手を伸ばす。土方は、一瞬その手を払おうかと思ったけど、できなかった。

「もうやらねぇって約束しただろうが」

きゅうとその手を握る。弱く握り返された。たまらなくなってキスをする。

「ひじかたさん…」

あ、声、でた、

「いま、ちょうどキス、してーって、思ってたの」
「そうか」
「つづき、おねがい」

土方は黙って着物の合わせから手を入れ肌に触れた。ひくんと沖田の体がはねる。そのまま着物を開いていって鎖骨が見えてピンクの乳首も露になる。細い。触るのに躊躇するほど、ほそい。薬のせいだ。やっぱこのまんまじゃだめだ!土方は思った!

「総悟、旅に出よう」
「…たび?」

沖田が不思議そうに首をかしげる。こんなところにいてはだめだ、土方は思った。こんな狭い世界にこもりきりだからだめなんだって。総悟のためならすべて捨ててやる、って、土方は思った。仕事も妻もなにもかも。

「…どこへ?なんのため?」
「どっか、遠いトコ。総悟と幸せになるために」
「しあわせ…」

沖田はオウム返しに言って少しだけ眉を寄せた。あまり気乗りしないようだ。

「おれは、いまのままで、しあわせ」
「ばーか!こんな幸せがあるか!」

土方は笑うと沖田の手をひっぱった。沖田はまだふらふらしていたけれど構わない!むりやり立たせて肩を貸してやった。土方はアクティブだった!やると決めたらすぐにやらないと気がすまない性質なのだ。さーもー行くぞーってそういう感じ。沖田は慌てた。

「ひじかたさん、ようい…」
「いるかンなもん!身ィひとつで十分だ」

沖田は考える。よくまわらない頭で考える。ここで土方さんと旅にでる。おれのしあわせは今のところふたつ。土方さんと旅に出るとひとつは確実に消える。でも土方さんとずっと一緒にいられる?本当に?本当に、本当?

「おれとずっといっしょにいるの?」
「当たり前だろ」

なら…、ちょっとだけ沖田に明るい未来が見えた。わくわくって感情を久しぶりに思いだした。ドアを開くとまぶしい太陽と遭遇した。これから何が起こるのか分からないけれど何が起こったってこのひととならいいやって、沖田は思って、一歩を踏み出した。







END

ヤジキタ
どんだけブーム遅れ? 

に 0801108