冷静に自分を見つめていると思っていた土方はけれど沖田のキュと強く握られた拳が小さく震えているのに気付いた。拳からまた沖田の瞳へと視線を移すと濁りもなく澄んでいる瞳が目に入る。真っ直ぐと何の迷いもないように見える瞳はこちらが参るほど、綺麗だ。けれどもそれは虚勢に過ぎなかった事を土方は感じた。震えている、沖田は、確かに。涙を堪えているのだろうか。よく見ると眉が少し寄せられているような気がした。


「土方さんが愛してくれないと死んでしまう」

ぽつりと沖田が言った。つい失笑してしまいたくなるのを抑える。けれど口の端が上がるのは抑えきる事ができなかったらしい。証拠に自分を見る沖田の瞳に凄みが増した。土方は少し肩を竦め目を逸らす。そのまま黙り込む沖田に土方も特に喋る事も思いつかず黙った。数分、沈黙が2人の間を包む。けれど急に沖田が身を乗り出して土方にしがみついてきた。そして彼には珍しく、感情的に叫んだ。

「辛いんでさァ!受け入れてくれないのならいっそ殺して…!お願い!!」

熱く、切なげにそう叫ぶ彼にけれども驚くほど土方は冷静だった。沖田は土方の肩に顔を置いていたから土方の表情は見れなかったが土方の表情は余りに、冷めていた。白けた瞳は虚ろに壁を見ていた。沖田が熱くなれば熱くなるほど自分が冷めていくのを、土方は感じた。

彼がこんなに自分を好いているのは、自分がそう仕向けたからに他ならぬと言うのに。大事に大事にしてやった。沖田が小さい頃から。まるで刷り込むかのように。自分ほどお前を大事にしてやれる人はいないのだと、教え込んだ。その結果沖田は面白いほどに土方に依存し彼がいなくては何も手につかないほど、彼を愛し慕った。思い通りの結果に土方は何の不満があったのだろうか。冷たく壁を見る表情からは何も読み取れない。

「土方さんを、愛してる!愛してる!愛してるんだ…!」
「軽いな」

止めなければいつまででも叫び続ける勢いの沖田に一言言い放った。ピクと沖田の身体が一瞬震えたのを肌で感じ土方はまた唇の端が吊り上るのを感じた。今度は沖田に顔を見られていないので遠慮なく上げさせてもらった。

「お前が俺を愛すのは別に構わねぇけど」

縋りついてくる沖田を突き放す事はせず、けれども腕で抱き締めてやる事もせずに、土方が静かに言った。余りに冷静な口調に熱くなっていた自分がこんなに土方と密着しているのにこれ以上ないほどくっついているのに土方ととても離れた距離にいるような気が沖田はした。けれども昂ぶった気持ちは抑えきれずにぎゅうと土方を抱き締めている腕に力を入れる。

「でも、愛せってのは無理な話だ」
「…………ひじ、」
「俺は、もうお前を愛してない」
「…………いや」
「理由なんて必要ねぇだろう?」

淡々と、ただ事務的に言う土方に堪えきれないかのように沖田が叫ぶ。

「嘘!土方さんは、俺を愛してる!」

子供のようにそう叫んだ沖田に土方はハと小さく嘲笑にも似た溜息を吐いて沖田を傷つけた。唇を噛んで眉を寄せる沖田の悲しげな表情に(土方に沖田の表情は見えていなかったがビクリとはねた身体から土方は悟った沖田が悲しげな表情をしているだろうとそして実際その通りだった)少し良心が痛んだ気もしたがけれど余りに放漫な事を言う沖田に少し苛ついて馬鹿馬鹿しく思えてどうせなら抉り込むくらい深く、傷つけてやろうかと思った。真選組一と言っても良いほど気位の高い、沖田。生意気で、何一つ思い通りにならぬ事などないと思われている彼が、沖田が、自分の一言で余りにも呆気なく簡単に、壊れてしまうらしい。面白いじゃないか。何にも動じないと思われた我侭で自由奔放な彼が自分の一言で、壊れてしまう。何にも劣らぬ快感ではないか。

ぐい、と髪を掴み乱暴に自分の胸板から沖田を引き剥がす。そして耳元で、低く冷たく、けれどもはっきりと、言った。

「俺は、お前が 嫌いだ。触るのもおぞましいほどな」
「―――っ…」

そう言ってから、驚きと悲しみで目を見開く沖田の肩をどん、と強く押した。細い身体は簡単に畳に投げ出される。そのままぴくりとも動かず放心している沖田を立ち上がって土方は見下ろした。どこまでも、冷ややかに。


END


なんでこんなんなったんだろうねぇ いやきっと土方は沖田好きだよ!精神的言葉責めみたいなさ 

 憂い 050114