|
沖田は珍しく少し困っていた。 バレー部だったかバスケ部だったか忘れたが兎に角何処かの部活の顧問がロッカーの抜き打ち検査をしたらしい。その結果煙草やビニ本と言ったあまり芳しくないものが発見されたらしいのだ。部室にあるロッカーは教師も余り見ないので生徒達の良い隠し場所になっていた。けれど上記の出来事でそれが教師側にバレてしまい全ての部活動でロッカーの抜き打ち検査が行われる事になったから、で、ある。 ただいま沖田は、順番待ち中。 今日は顧問が休みだったので部長である土方が検査を行っている。他の奴ならシメてやらせないでおく事もできるが土方ではそうはいかない。はぁ、と沖田は溜息を吐き苛立たしげに眉を顰めながら視線を斜め下に向けていた。 いつもは煙草やビニ本、お菓子や私服が入っている沖田のロッカー。それくらいなら今更土方がそんな事で怒るはずがないしきっと大目に見てくれるだろうから全然良いのだが如何せん今日は、見られたらヤバイものがロッカーの中に入っている。本当にどうしてこんな日にロッカー検査なんてされなければいけないのかと原因を作ったサッカー部だったかバトミントン部だったかを沖田は恨む。 「ひじかたさーん俺のロッカーは見ない方がイイですぜィ…驚きやすから。マジで」 「大丈夫だ、今俺、ロッカーの中身物凄いのを想像してるから。この想像を超える事はきっとない」 「いや。今土方さんが想像してるのの100倍は凄いですぜィ」 「そんなになの!?」 いつもの癖でつい的確に沖田に突っ込みを入れつつ土方は1年生のロッカーから細かくチェックしていく。流石に1年は部長の土方を恐れてかきっちりとしているし余計な物も何にも入ってない奴が多数だった。たまにおかしな物が入っている奴もいたが怒るほどのものはない。 最後、1年の1番はしにある沖田のロッカーまで来て土方はチラと沖田の方を見、溜息を吐いた後言った。 「…沖田のは一番最後にした方がいいな」 「懸命な判断ですぜ土方さん」 偉そうに言う沖田を無視して次は2年のロッカーを調べていく。特に目立つような好ましくないものは見つからずホとしつつ3年のも調べる。3年のロッカーも体育会系のロッカーの中身ではお約束の少し引くものや触るのを躊躇するような汚い物はいくつかあったが違反するものはなくてフゥと土方はまた一息安堵の息吐いた。けれどもチラと沖田のロッカーを見て今度はフと溜息を吐く。何が入っているのだろうか。あの沖田が開けない方が良いと言うもの。 「………」 土方には想像がつかなくて、それだけに怖い。けれども意を決し土方がロッカーに手をかけ開けようとした瞬間、沖田が待って!と大きな声をあげた。 「…なんだよ」 「いや、やっぱ、無理!見ちゃだめでさァ!」 「…そーゆー訳にはいかねえだろ。何が出てきても驚かねぇから。よっぽどのモンじゃなきゃ怒る気もねぇしよ」 「いやそういうのじゃないですから。本当そういうものじゃないですから」 「なんか口調変わってんぞお前」 「…お願いでさァ土方さん!幼馴染じゃないですかィあんな事もそんな事もした仲じゃないですかィ!」 「してねぇええだろおがよお!!」 「じゃあせめて部員外に出せやオラァ」 「なんでそんな偉そうなんだよ!」 「…出してくだせえ」 「…」 少し焦っているようにも見える沖田にそんなに凄い物が入っているのかと土方は内心汗をかいた。取り合えず部員を全員外に出してやって土方は沖田のロッカーの扉に手をついて溜息を吐いてから考える。せいぜい煙草とかお菓子とか置いといたままのパンだとか、それくらいのものだと思っていたがまさかドラッグやらハジキやらそっち系のモンでも入っているのかと。いやけれど。沖田がどんなものを所持していようが暖かい心で迎え入れてやろうと決心し扉の取っ手に手をかけた。途端ぶつぶつと沖田の不平が耳に入る。 「あー…いやだ…土方さんが俺をいじめる…」 「いじめてねぇよ何だよお前おかしいぞ」 「……」 唇を尖らして拗ねたように横目で自分を見てくる沖田の視線が痛い。物凄く開けにくかったが土方は息を吸って勢いよくバンッと開けた。 「…あり?」 凄い物が出てくるだろうと想像していた土方はけれど一見何の変哲もないロッカーに拍子抜けする。いや一見も何もロッカーの中にはぐちゃぐちゃになっている胴着しか入っていなくて。その中に何かヤバイもんを隠しているのかと思いそこを探ろうとして土方はロッカーの中の右側に紙が貼り付けられている事に気付いた。それを剥がそうとしたら土方より早く沖田がそれをとろうとしたものだから土方はその沖田の手首を掴む。 「なんだ?」 「離してくだせぇ!」 「…なんだよ」 何の変哲もない紙、だ。裏に文字が書いていそうなそれはセロハンテープで貼り付けられていた。焦っている様子の沖田を珍しいと思いつつ見ながらペリ、とそれを剥がす。何が書かれているのか裏を向け見ようとしたところでペシッ、と沖田に少し強めに頭を叩かれて見損なってしまった。 「イッテ!てめっ」 「返して!」 「ンだよ…そんなにヤベェ事が書かれてんの?」 「それ返してくれたらあとはロッカーの中好きなだけ見て下さって結構ですから!」 「おお流暢な敬語」 「返せ土方コノヤロー」 悪態を吐きながらサッと紙を奪い取ろうとするが一瞬早く土方が手の届かないところにやった。む、としながら手を伸ばし沖田の届かない高いところへ紙をやる土方にぴょんぴょん跳ねながら何とか紙を奪おうと沖田は頑張る。けれども沖田が紙を取るより先に土方が裏を見てしまった。 「〜〜〜っっ…」 「……なんだァ?」 途端しゃがみ込んで顔を隠す沖田を土方は不思議そうに見る。紙には「土方十四朗」と土方のフルネームがハートマークの中に書かれていた。それだけだ。何故沖田がそんなに見られるのを嫌がっていたのか分からない、と首を傾げる。けれども土方はふと思い出した。 「(……待てよ)」 頭に過ぎったのは今学校内で流行っているおまじないだった。クラスの女子が戯れに教えてくれたそれは確かに今沖田がしていた事、意中の人のフルネームをハートの中に書いて部室のロッカーの右側に張る、だったのではないかと。そうすると両思いになれるらしいよ、と聞いてアホらしいと思ったのは割と記憶に新しい。って、事は、だ。土方は考える。いや、考えるまでもないではないか。 「…………え、おまえ…」 「だから言ったのに!だから見ねぇでって言ったのに!」 「………いや、おまえ、…これ…」 「うるせぇやもううるせぇ!何にも言わねぇでくだせぇ!」 「え、だっておまえこれ…」 「それしかいえねぇんですかィばか」 やっと意味が分かったらしい土方に沖田は顔を少し赤くしながら言った。けれどそれからえ、まじで、と言った感じで自分を見てくる土方に居た堪れなくなる。続けてまだえ、まじで、と繰り返す土方に沖田はとうとうキれキッと睨みつけながら叫んだ。 「何度言ったら分かるんでィこのばかばかハゲナススケコマシナルシストアホ面黒ちんこ!!」 どさくさに紛れて言いたい事を言って落ち着いたのか沖田はそこまで言ってふと黙った。それからハァーと深い溜息を吐いて恨みがまし気に土方の方を向きながら言った。 「放課後まで誰にも見られなかったら成功だったのに…土方さんのせいでさァ」 威張るように言ってみたけれど沖田は男同士で、なんて、と軽蔑されるか気持ち悪がられるだろうと少し身を固くする。けれども土方は一つ間を置いて、少し照れてる風を見せながら言った。 「……いや。成功してんぜ、まじない」 「ハァ?」 言って顔を上げた沖田の瞳に穏やかに笑う土方の顔が目に入る。ピクンと思わず身体がはねた。長い付き合いになるがこんな表情は見た事がない。穏かで、優しげな、笑顔。正直いつもなら気持ち悪い!と茶化していただろう(と言うか本気で気持ち悪いと思っていたと思う今この土方の顔を写真で撮って後で見てみたら爆笑できる自信が沖田にはあった)けれど今、胸が高鳴るのを沖田は感じていた。 「え、…」 「好きだ、総悟」 「…え」 そう言って思い余ってかギュと強く自分を抱きしめてきた土方にどうすれば良いのか焦る。取り合えず背中にそ、と手を回して、こういうのを棚から牡丹餅と言うのかと見当違いな事を思いつつけれども口もとが緩くなるのを沖田は止める事ができなかった。 END |
| 恋の魔法 050208 |