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「ひじかたさーん」 すん、と鼻を啜る音が聞こえたかと思ったら続けて沖田の声がした。鼻声だった。のこのこと自分の前まで歩いてきて見回りの時間ですぜィ行きやしょうや、と言う沖田のいつもより少し赤い顔を見る。その間にもまた沖田がすん、と鼻を啜った。いつもよりだるそうな沖田のその明らかに風邪っぴきな様子に土方は少しの間沖田を見つめて、言った。 「なぁ、…お前熱あるんじゃねーの」 「…そう思いやす?」 「…うん」 「ひじかたさんがそういうなら、そうなのかもしれやせんねぇ…」 曖昧に答えを返す沖田を少し呆れたように見つつ沖田のおでこに手の平を当ててみる。思った通り手の平から熱が伝わってきて今度こそ土方は呆れたように深く溜息を吐いた。 「なーんでおめぇ、自分で熱あるとかわっかんねぇかね?」 「って、聞かれやしてもねぇ…。ワカンネェもんはワカンネェんでさァ」 「だるいとか、しんどいとか、感じない訳?」 「言われると、感じる」 「…あぁ、そう」 人間は言葉に左右されやすいものだけれども沖田はその典型だと、土方は思った。 沖田は肌は白いし細いし顔は可憐だし容姿からは病弱だと思わせる要因は引っ切り無しに出てくるけれども性格が余りに可愛げのない為あまり病弱に見られなかったがしかし実は結構病弱でよく風邪をひく。けれどもどうも自分では熱がある事に気付かないらしく少しの間でも一人にさせておくと何処かに倒れていたりするのだ。だから、目が離せない。本当に堪ったものじゃないと土方は思いながらもまだまだ手のかかる沖田を嬉しく思っている事も否定できなかった。 「ひじかたさん、リンゴ…むいて」 別に大丈夫なのにと言う沖田を無理に布団の中に押し込んで、けれども漸く熱があると自覚しそれと同時に辛さを感じ始めたのか頬を赤くしてハァハァと荒い息を繰り返しながら沖田が言った。こうやって、辛そうに息を乱しながら自分を見、布団に横たわっている沖田を見るとどうしても頼みを断れない。 リンゴを剥いてやるくらいなら良いがそれ以上のどんな我侭でも要望でもきいてしまいそうで、時々怖くなる。 土方はザクッと真ん中で切ってそれをまた半分に切りズイッと沖田の口元に持っていった。けれども沖田は顔を顰め唇を尖がらして言う。 「かわもむいてくれないといやでさァ」 「何我侭言ってんだよ!食え!」 「いや…。むいてくだせぇよ、…おねがい。おれ、かわたべれない」 「………」 舌足らずな口調でそう言われて、土方は押し黙る。なんだよなんだよ可愛いじゃねーのよ。思ってついじぃと沖田の顔を見てしまう。けれども潤む瞳に艶のある唇を直視できなくて土方は目を逸らした。 それからご要望通りしゅりしゅりと多少実を切ってしまいながらも器用に皮も切ってやる。 沖田がニコと、微笑んだのが分かりそれだけで嬉しい気分になっている自分を単純だと思った。 そしてりんごを差し出してやるがけれどもそれをとろうとせずに沖田はあー、と口を開けているだけだった。口に放れ、と言う意図に気付きけれども土方は口を開けている沖田のその顔が可愛くて見惚れてしまってその口の中にりんごを放るのを忘れていた。そうしたら沖田が少し小首を傾げながらまたも舌足らずに言う。 「たべさせてくだせぇ」 「あ、…あぁ」 言われて漸く小さな口にりんごを近づけてやった。そうするとしゃり、と音を立てて沖田がりんごを噛む。寝転んだままだったので口の端から果汁が零れた。ぐい、と親指で拭ってやるとへへ、と沖田が笑うものだからなんだよと低く言う。 「ひじかたさん、やさしい」 くるんとした大きな瞳をこちらにやって、沖田が言った。頬に浮かぶ汗が色っぽさを増させていておまけに沖田が髪をくしゃりとかきあげたものだから、見えた真っ白な腕と額に馬鹿みたいにドキリとしてしまう。病人相手に何欲情しているのだと思うのだけれども、欲望を自分で制御できる奴なんているものか。開き直ったようにそう思ってけれどももうこれ以上此処にいたら本当に沖田に手を出してしまいそうだったので土方は仕事に戻る、沖田にそう言おうと思ったのだけれどもその前に沖田に口を開かれた。 「こっちきて、ひじかたさん…」 ぽん、と自分の隣を軽く叩いて沖田が言った。 「え…」 「ふとんのなかはいってって、言ってるんでさァ」 こっちに来てと言われても、もう自分はこれ以上ないくらい沖田の傍にいて、それ以上沖田の方へ行くには布団の中に入らなくてはいけなくて。そういう意味なのかと、土方は戸惑った声を出す。それに沖田が細かくその意味を告げて、布団をガバッと開けた。 「え、いや…」 「なにかやらしいことかんがえてないでしょーね?いっしょにねるだけですよ」 「は、あ、…そう」 勿論土方の頭の中ではセックスと言う行為が思い浮かびけれどもそれをあっさりと否定されつい少しだけ残念そうな声を出してしまう。沖田がフッと笑ったのが気配で分かった。 「って、風邪うつす気かよ…」 沖田の風邪が治るのならば別にうつされたって勿論構わないのだけれども期待させておいて(いや土方が勝手に期待しただけなのだけれども)ただ一緒に寝る、だなんて蛇の生殺しみたいな真似強いているのと先ほど笑ったのが気にくわなくてつい憎まれ口を叩いてしまう。けれども沖田はいつもみたいに嫌味を言ってこずただ甘えるように言っただけだった。 「だって一人じゃねられない」 「………」 「おれがねるまでのあいだだけ、…ね?」 「………」 何甘えた事言ってんだと小突いてそのまま仕事に行っても良かったのだけれどもいや本来ならそうすべきなのだろうけれども、土方にはできなかった。だって普段の沖田なら、こんな事言うはずがない。 風邪を引いた時の沖田は妙に素直で、しおらしく感じて、困る。強く自分の意見を言う事が、できない。自分を見るその視線がそんなはずはないのに情を抱いているような色気があるのだ。 「しょーが、…ねぇな」 溜息と共にそう呟いて、土方は開けられた布団に潜り込む。そうすると早速沖田が首に腕を絡めてきてぎゅうぎゅうと強く抱きついてきた。本当に襲うぞと、心の中で呟いてけれども本当はそんな気もうなくなってしまっているのに土方は気付く。こうやって、沖田もただ甘えるだけの為に身体をくっつけさせてきていると父性をくすぐられると言うのだろうか。性に関する欲望は姿を消しただ幼い子供に感じる庇護欲や大事にしてやりたいなんて言う感情だけが現れる。いつもは欲情しかしないのに、おかしな事だと土方は思うけれど。 「土方さんのからだきもちいい」 「そうか…」 「うん、…おやすみなせぇ」 「おやすみ」 瞳を閉じる沖田に小さくそう言って、堪らなく愛しくなる思いを込めてギュウと抱き締めた。 END |
| 風邪ネタ大好きですよ私!(何いばってんですか) しかしなんか、書きたい事を書きたいだけ書いてしまった感があります(…) まとまりがない… 自覚があるだけマシですかね(いや自覚があるのに直さないのが一番悪いです) 風邪っぴき 050501 |