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時計を見てみるともう午前1時前だった。呑まねぇでやってられるかィと道場を飛び出してもう何時間経ったか。指折り数えてみるが途中で頭がぐわんぐわんして気持ち悪くなったのでやめた。いつもだったら決められた門限の時間を過ぎると土方に説教をくらうのでびくびくして道場に帰っていたが今日は、違う。こっちだって、怒っているのだ。けれども沖田はそこまで思って、先ほど見た自分が怒るきっかけとなった出来事を思い出してしまい眉を寄せさた。それをぐい、と酒を呷る事で忘れさせる。 沖田が店を出たのは、それからまた1時間ほど経った後だった。 「総悟!!」 大きな声で怒鳴られて沖田は顔を顰めさせた。むす、とした顔で横を向いていたらこっち向けとまた怒鳴られる。それが頭に響いてアルコールが入っている身体には辛くてイラ、とした。けれども横におろおろとしている近藤が見えて、近藤にだけは少し悪かったと沖田は反省する。しかし今目の前で怒っている男にだけは文句を言われたくないと、沖田は思った。 ぐちぐちと説教をたれる土方にそんなお小言聞いていられる気分じゃない沖田は土方が喋ってる途中なのも構わず叫ぶ。 「うるせぇやぃ!!も、俺ガキじゃねぇんだから放っておいてくだせぇよ!」 けれども酒が入ってる為呂律もまわっておらず声の大きさも不安定だったその声は自分でも笑ってしまうほどおかしかった。誤魔化すように沖田は舌を出しあかんべをすると土方の横を上手くすり抜けて行く。土方は捕まえようとしたけれども沖田の方が素早さでは上で、取り逃がした。チッと舌打ちをすると全く可愛くなくなったと、近藤に愚痴を漏らす。 「いやぁ、総悟も何かあったんだろ。ちょっと俺が行って聞いてみるよ」 「いーや、俺が言ってくる。近藤さんが甘やかしてばっかだから総悟があんなんになるんだ」 そう言うと近藤は思い当たる節があるせいか苦笑をして、それじゃ頼むと言った。土方は少し相槌を返すとすぐに沖田の部屋へと向かう。そしてつかつかと廊下を歩きながら思いを巡らしていた。もう2時前だ。いくらなんだって、遅すぎる。いつもは自分も沖田には多少甘いが今回はしっかり叱っておこうと、土方は心に決めた。 「総悟!」 ノックもしないでスパンッと景気よく襖を開けるともう寝るつもりだったのか沖田は布団を敷いているところだった。そして襖の鳴る音に少しだけ土方の方を見たがすぐにつん、という音が聞こえそうなほど勢いよく反対の方へ顔をやった。かっわいくねぇ、思ってから土方は沖田へと近寄って行く。 「よらねぇでくだせぇよ!!」 それを見て沖田は敷きかけの布団を放り出して土方から遠ざかった。そしてそれでも近寄ってくる土方の横をするりとまたも上手く通り抜けようとするが次は失敗だった。ぐ、と手首を強く掴まれてしまう。 「やっ、」 「ん…」 ぐい、と自分の近くへ引き寄せると濃い酒の匂いが漂ってき土方は顔を顰めさせた。先ほどから感じてはいたのだが沖田の顔は全然赤くなっていなかったし酔った様子もなかったのでまさか呑んではいないだろうと思っていたのだ。けれども確かに、酒の匂いがした。土方は感情的になって半ば怒鳴るように言う。 「総悟てめっ、酒呑んできたのか!?」 「関係ねぇでさぁっ」 どうにかして腕を振り払おうと沖田は力を入れるが無理だった。諦めて悔しそうに眉を寄せる。 「お前まだ14だろ!!こんな時間まで酒呑んでたのか!?」 「関係ねぇだろィってば!!」 怒鳴れば怒鳴りかえしてくる全く悪びれた様子の無い沖田に土方はハァと溜息を吐いた。けれどもそれに沖田がビク、と震えたのに土方は気付く。怖いのに虚勢をはっているのだと分かり土方は幾分落ち着きなんだ可愛いとこあんじゃねぇかと思った。 「とりあえず、座れ」 「……」 「大人しく座るか?」 「……」 低い声で聞いてくる土方に沖田はふてくされたように横を向きながらけれどもこのままでは埒があかないと思ったのだろう、こくんと小さく頷いた。土方が手を離してやると沖田はぺたんと胡坐をかいて座る。 「なーに胡坐かいてやがんだ!正座に決まってんだろ正座に!」 「……死にやがれィばか!」 「ンだとコラ!」 土方がパシンッと頭を軽く叩きながら言うと沖田はボソリと小さく悪口を吐いた。怒鳴る土方に屈した訳ではないだろうが沖田は唇を尖らしながら足を正座へ直す。と、不意に先ほど腕を掴んでいた方と反対の方の手の拳がチラリと見えそこに血がついていたものだからそれを見つけた土方は大きく目を見開いた。 「なんだこれ」 「いや!」 嫌がる沖田の腕を無理矢理とってよく見てみると沖田の手が傷ついているのではなくその血は他の人の血がついているだけだと分かる。そしてこの血のつき方は。 「てめっ、喧嘩してきやがったのか!?」 「だっ、む、むこうが、べたべた触ってくるから…」 「ばっか!」 ゴンッ、と思い切り拳骨で頭を殴る。沖田がいったぁい、と高い声をあげたがいつものように可哀想だとは思わなかった。全く、と呟くとけれども沖田は少しの間していた潮らしい態度を翻しキッ、と眉を吊り上げると叫ぶ。 「土方さんに叱られる筋合いねぇもん!!」 「俺が叱らなきゃ誰が叱るんだよ」 「土方さんは俺といるより女の人といる方が良いんでしょう!!」 「な、なにいって…」 急に沖田が言ったその言葉にけれども思い当たる節がある土方はやべ、と内心汗をかいた。 昨日の昼間、沖田と土方は今日一緒に稽古をする約束をしていたのだ。けれども土方は仕事ができたと言いそれを断った。本当は、女と会う約束が出来てしまったからだったのだけれど。 「俺とやくそくしてたのに」 「や、だからあれは、剣道の指導を、」 「うそつき!!」 言葉を遮って叫んだ沖田の自分をきつく睨んでいる瞳がとても澄んでいて綺麗で嘘を吐く事で、嘘を吐かれる事で、沖田を穢してしまったような気がして土方はばつが悪くなる。 暫く間があって、それから沖田は土方にぎゅと抱きついてきた。それが意外で土方は驚く。 「…ひじかたさん、おれよりおんながいいの?おんなのひとのがすきなの?」 「違うに決まってんだろ」 「じゃあなんでおれとのやくそくやぶったの?」 「お前の方が、大切だよ」 質問には答えず弱く抱き締め返してやりながら土方が言った。いつもより殊勝な沖田が珍しくて可愛くて、愛しかった。きっと酒がまわっているのだろう、普段なら絶対に、こんな愛らしい事は言ってくれない。 沖田は黙っていた。 大切だよ、と言う土方の言葉にとても安心した自分を、沖田は感じていた。自分との約束を破って女と一緒にいる土方を見た時沖田は、物凄くショックだったのだ。そんな事、絶対に土方には言わないけれども。 そのまま黙り込む沖田の頭を土方は何度か撫でてやっていた。きゅう、と抱きつく力が弱まってきたかと思うと沖田は寝息を立て始めた。ふ、と土方は苦笑する。 結局強く叱る事ができなかった土方は、やはり自分も近藤の事は言えず沖田には甘いと、そう思い深い溜息を吐いた。 END |
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蟻の餌食 050827 |