そんな話を隊士達がしていたのを聞いた後だったから。つい余計に苛立ってしまったのかもしれない。

沖田に用事があった土方は沖田の部屋の前まで来ていた。ノックをしようとして、けれども中から喋り声が聞こえてきたものだから土方はそれをやめて耳をすませてみた。沖田の部屋に客なんて珍しかったので誰だ、そう思って。
暫く耳をすましていると沖田の戯れるような笑い声、鼻につく甘い声、そして聞き覚えの無い緊張しているような男の低い声が聞こえてきて、土方は固まった。
それに連想されて先ほど隊士達が話していた言葉が頭の中を、回り始める。


『沖田隊長って、ほんっとソソるよな』
『色とか白いし細いし顔かわいーし』
『同じ屋根の下にいると思うとドキドキすんだよ』
『正直俺、沖田隊長の顔想像してイける』
『…分かる』


コルァアてめぇら何話てんだァ!土方は怒鳴りたいのを我慢しながらその話を聞いていた。仕事外の時間にどんな話をしていようと隊士達の勝手だ。しかし土方はとても不愉快になった。もっと考えなければいけない大事な事がいっぱいあるのに今頭の中の大分部を締めているくらいには。

土方はまさか沖田が部屋に男を連れ込んでやらしい事をしているはずがない、そう思ってけれどもならば先ほどの沖田の甘ったるい声は何なのか、人を寄せ付けない沖田が部屋に男を連れ込んでいるのはどうしてなのか、やらしい事をしているから以外他に何も思い浮かばず自分でも知らず知らずの内に眉を寄せさせていた。
暫く土方は沖田の聞いた事のないような声(それを喘ぎ声だと、土方は認めたくなかった)を聞いていたのだけれども。

「ア、あ、…ん、も、早く、しろィ…」

切羽詰ったような沖田の声が聞こえてきてカッとなった。カッとなった勢いで、ドアを開けてしまった。

「…に、やってんだテメェら!!」
「ひっ」
「……」

きっと沖田の艶姿に囚われて、沖田の性感を自分の持てる限りを使って高まらせてやろうと必死で、土方が部屋の前に来ている事に気付かなかったのだろう。沖田の上に跨っていた男は突然の土方の登場に本当に吃驚したように身体をはねさせて沖田から離れた。けれど沖田は気付いていたのだろう。取り分け驚いた様子もなく露になっている肌を布団で隠す事もしないままゆっくり起き上がると髪をかきあげすいませんすいません!顔を青くさせて謝りながら部屋を出て行く男を止めるでもなくぼんやりと、見ていた。
その男が出て行くのを見送った後苛立たしげに土方が言う。

「あいつァ、首だ」
「何言ってんですかィばっかみてぇ」
「アァ!?」

感情に任せて言葉を口にする土方にけれども沖田は冷静だった。クールにバサッと一言言って床に乱雑に置かれている自分の小袖をとるとそれを羽織る。そして軽い音をたててまた布団に横になった。そのまま土方の方は向かずに真上、天井を見つめながらくしゃ、と前髪をかきあげる。その仕草が色気たっぷりでいつもは沖田に色気なんて感じないのにと土方はいつもと違う様子の沖田に少し戸惑った。

「大体何にも言わずに中入ってこねぇでくだせぇよ、遠慮のねぇ人だな」
「……」
「アイツ、童貞だからトラウマ決定だぜィかっわいそ」
「お前な…」

言いたい事はそれだけか、と、半ば呆れながら土方は部屋の中へと入る。沖田はこちらを向かなかったがそれが気配で分かったのだろう。面倒臭そうに顔を顰めさせた。

「アイツと付き合ってんの?」
「まっさか」
「っ、じゃ、なんで、…ヤってんだよ」
「関係ねぇでさァ」

言うと沖田はチラ、と一瞬だけ土方を睨むように見た後うんざりだとばかりに瞳を閉じた。そしてこの話はもう終わりとでも言うようにごろん、と土方がいる方とは反対方向に寝返りを打つ。しかし土方は話を終わらせるわけにはいかなかった。

「他の奴とも、ヤったりしてんの」
「関係ねぇ」
「総悟!!関係あんだろうが!」
「関係ねぇじゃないですかィ!!」

怒鳴ると沖田は起き上がる。それにぱさ、と羽織った小袖がずれて肌が露にされた。白くなめらかな肩が晒されて土方はそれをつい食い入るように見てしまう。そしていつの間にこんな艶を自分のものにしていたのかとそう思ってけれどもその艶を与えたのが自分じゃない事に土方はどうしようもなく自分が苛立つのを感じた。だからだろう、次に出た言葉の音色は先ほどより大分不機嫌なものだった。

「…ヤってんのかよ」
「ヤってたら悪いんですかィ」
「おまえね、」
「別に相手なんて誰でも良いし」
「てめっ」
「土方さんでも、良いんですぜィ」

怒鳴ろうとして、けれども予想外の言葉に土方は怒鳴ろうとして大きく開けた口をそのままに動けなくなる。クスッとその様子を見て沖田が嫌味っぽく馬鹿にしたように鼻で笑った。土方は顔を顰める。

「…総悟」
「土方さんってばタイミング良く挿れる寸前にドア開けるんだもん。俺体あつくって」
「総悟」
「ね、こっち来てくだせぇよ土方さん」
「冗談もいい加減にしとけよ」

誘うような媚びるような瞳で見つめてくる沖田を強く睨みつけながら土方が言った。それに沖田は瞳を伏せさせけれども次に土方を見上げた瞳はきつく土方を見据えていて。

「なら、出てってくだせぇよ」
「話が繋がってねぇ」
「知らねぇでさァ。出てってくだせぇ!ここは俺の部屋でィ」
「おまえはなァ、娼婦みてぇな事やってんじゃねぇよ!!」
「っ、な、んですかィその言い方…!」

今まであまり感情を出していなかった沖田が流石に土方のあんまりの言い様に怒る。しかし土方は冷静だった。

「なんだよ」
「アンタだって色んな女と寝てんだろィ!同じでィ」
「同じじゃねぇよ!てめぇ抱かれてんだろ!恥さらしも良いとこだ!!」
「なら俺も女なら良いんですか!?」

むっとしたように叫ぶ沖田にけれども土方は自分でそのような事を言っておいてそういう問題ではないと、思った。沖田が女を抱くのも男に抱かれるのもどちらも土方には同じくらい嫌だった。しかしそれがどうして嫌なのか、土方自身実は良く分かっていなくて。
大体にしてどうも自分の沖田に対しての思いや感情は矛盾が多くて良くないと土方は思っている。深く考えれば一つの答えが出るのかもしれないが深く考える事を土方の脳は拒否していた。きっと、考えて出た確かな答えには損な事の方が多いと予測されるからだろう。

「土方さんはわがままでさァ」
「おめぇにだけは言われたくねぇな、その言葉」

少し黙って、それから言った沖田のその口調は少し子供っぽくて拗ねているような口調だった。

「俺の事好きなくせに、好きだって言わねぇし自分は性欲発散させまくってるくせに俺にはさせてくれないし」
「ハァ!?」
「あんた、ずりぃ!!」

いきなり突拍子も無い事を言い出す沖田に土方はたじろぐ。ずるいとまで言われてしかし土方は落ち着きを取り戻させて、それからできるだけ慌てたのを表に出さないように言った。

「待て待ていつ俺がお前の事好きっつった?」
「言ってねぇ」
「勝手につくってんじゃ」
「もう良い!土方のばっかやろー!!出てきやがれィ!!」

しかし言葉を遮られて叫ばれる。その後はぐいぐい押されて(物凄い力だった)部屋を追い出された。そしてバンッと思わず眉が寄るようなでかい音を立ててドアが閉められる。土方は出来事の余りに早い流れについていけず暫し放心してそのままそこに突っ立っていた。しかし我に戻ると頭をかき、何なんだよ心の中で思いながら部屋から離れる。





「うっ、…」

沖田は土方の気配がそこから無くなると小さな声を出しながら乱暴に閉めたドアにもたれ掛った。そしてこみ上げてきた涙をポタと落とすとそのままずるずるとそこに座り込む。嗚咽をあげながら零れる涙を手の平でおさえた。
土方は沖田が自分が部屋の前にいた事を気付いていただろうと予測していたが情けない話沖田は全く気付いていなかった。ドアを開けられたあの時、本当は心臓が止まりそうなほど吃驚したのだ。沖田は男とセックスをしている事を誰に知られても、土方にだけは知られたくなかった。沖田は僅かな動揺すら出さずに対処できた優秀で愚かな自分を褒めて罵ってやりたかった。
好きで抱かれている訳じゃ、ない。沖田は思った。だって寂しくて堪らないんだと。そうだ土方なんて、毎日女とたらたら遊んでるくせに。ずっと昔、沖田がまだ小さな小さな何も知らない子供だった時からずっと、女とセックスをしているくせに。何で俺だけ怒られなくちゃいけねぇんでィ、知ってるんだ、土方さんが昔から俺の事好きだって事は。もう自分に似た女を捜して抱かなくて良いのに、俺を抱いてくれれば良いのに、沖田はそう思ってけれども上手くいかない現実に愛しさが憎しみに変わるのを確かに、感じた。
憎い、そう思ってけれども沖田はふ、と息を吐く。
憎くて堪らないけれども、愛しくて堪らなくもあるのだ。

「(ややこしい…)」

何でよりにもよってこんなに極端な2つの感情を1つの対象に抱かなきゃいけないんだどっちか1つだけになれればそんなに楽な事はないのにと思って、けれどもどちらにもなり切れない現状に沖田は悔しそうに唇を噛んだ。


END


「あんた、ずりぃ!」に似た言葉をいつかも使った気がします…
ボギャブラリー少ないから意識しないとすぐ同じ言葉を使ってしまうとです(はいはい)  

 ンビバレンス 050909