「ほんっとすいませんでした!」

ガバッと頭を下げながら土方は横にいる沖田の頭も一緒に下げさせた。まぁいつもの事なんだけどねぇ本当反省してくれないと困るよ、煙草くさい息をふぅと吐きながら言う刑事によく言っておきますと、土方は言ってまた深く頭を下げた。



「おっまえさァ、本当何度目なわけ、補導されんの」
「うん」
「いや今の質問「うん」で答えられる質問じゃないからね」

ムショ帰りだというのに悪びれた様子もなくぼんやりとしている沖田を見ながらあーあ、厄介なガキの担任になっちまったと土方は煙草に火をつけふかす。これから何度署に足を運ぶ事になるのだろうか。思って憂鬱になる。

沖田の問題児ぶりは校内でも有名だった。
今日だって喧嘩して数十人もの数の相手を病院送りにしてしまったらしい。親が余り家にいない沖田が補導されて呼び出されるのはいつも担任の教師だった。
土方はつい一週間ほど前沖田の担任に就任したところで呼び出されるのを覚悟はしていたがまさかこんなに間もなく呼び出されるとは思っておらず不意打ちできた警察からの電話に吃驚してしまった。サツに行くのなんて学生ン時以来だぞ何度来ても嫌な雰囲気なトコだと、校長が聞いたら嫌味をねちねち言われそうな事を土方は思う。
そしてチラと沖田の方を見てみて、沖田の顔にでっかい痣がついているのを見て折角綺麗な顔してんのに勿体ねぇなぁとか、思っていたら。

「せんせえ」
「アァ?」

横から声が聞こえて振り向いた途端、唇に柔らかな感触が触れた。大きく瞳が開かれる。おい、言う前に首に細い腕が回って体をくっつけられた。ちゅぅ、と音がしそうなほど強く唇を押さえつけられて濡れた感触がし不覚にもゾクリと快楽(と土方は認めたくなかったが)が体を走る。ぬめとした舌が歯をくぐって口内に入ってきて丁寧に歯列をなぞられた。巧みに動く舌に欲情が煽られる。土方は顔を引っつかんで逆に口内を弄ってやりたくなる衝動を必死になってこらえる事になった。
最後にれろ、と口内の上の方を舐められて唇が離される。

「っにすンだてめェ!!」

ぐいっ、と土方は沖田の唾液で濡れた唇を思い切り拭った。それに沖田は不服そうに顔を顰める。沖田は自分に自信があった。キス一つで男をおとせれる。

「お礼でさァ」
「ハァ!?」
「…せんせいしんねーの?」

何の話だよ、土方が言ったら沖田は少し面倒臭そうに、言葉を続けた。

「今まで担任の先公に、俺が補導される、…っつーかまぁ、俺が迷惑かける度に?、セックスさせてやってたの」
「…マジで?」
「マジで。だから。セックス、しやしょうや」
「……」

土方は話についていけずに黙る。
確かに沖田はとても綺麗な顔立ちをしていて、体だって信じられないほど細くて肌も柔らかそうで正直劣情を抱く人間は異性だけではないだろうと、土方も常々思っていたけれどもだからって体を売るような真似をしているなんて想像もしていなかった。そしてまさかその話が自分に降りかかってくるとも。

「ラブホ入るなら先生持ちで頼みまさァ」
「はぁ…」
「俺ん家行っても良いですよ」

勿論先生ん家でも、着々と進められているらしい話にちょっと待て、土方が言った。

「…お前そういう事すんの、やめろよ」
「え…」

土方は自分の言った事は正しくて普通の事だと思っていたけれども沖田が不思議そうな顔をして首を横に傾げたものだから一瞬アレと思ってしまった。けれどもよく考えてやはり至極当然の事を言ったと思いなおし何コイツ常識抜けてんじゃねぇのと土方は訝しげに沖田を見る。

「なんで?」
「なんでじゃねぇだろうが」
「俺、借りつくんのやだし」
「…」
「せんせぇも気持ち良くなれるし、」
「…」

悪い事なんにもねーじゃん、土方があんまりにもキツく自分を見据えているものだから、沖田は語尾が小さくなってしまったし視線も逸らしてしまった。

「とにかく、やめなさい」
「…」

強い口調で言われて沖田は唇を尖がらせる。

沖田だって何も好きで抱かれようって言うんじゃない。沖田は相手とフィフティフィフティの状態でないと満足ができなかった。満足ができなかったというより気持ちが落ち着かなかったのだ。少しでも相手に有利な状態でいられると焦ってしまう。
けれども沖田は体を売る以外に相手を満足させる方法を知らなかった。それを拒否されてしまえば他に自分と相手を対等にさせる方法を沖田は知らない。

土方は黙り込みしゅんと(しているように土方には見えた)する沖田に苦笑する。
土方自身学生時代は沖田と同じように喧嘩に明け暮れていたので沖田の心理がそこそこ分かるのだ。良い教師なんてほとんどいない。色々と複雑なのだろう。

「俺は別にンな事してくんなくても何度でもサツまで迎えに行ってやるよ」

まぁほどほどにしてほしいけどな、言ってくしゃりと頭を撫でてやると沖田が呆けた顔で自分を見ているのが目に入った。その沖田の顔を見て今度はふ、と笑って。気をつけて帰れよ、そう言ってもう一度くしゃりと頭を撫でてやって、土方は分かれ道に進んだ。


END


 

 ザントロープ 051006