「(あ…)」

見てしまった。
土方は、思った。
綺麗に整った顔を赤くしている少女の後ろに息を荒くした中年の男。どう見ても痴漢行為がなされているとしか思えないそれは満員電車ではよく見る光景だ。見て見ぬ振りなんてもう何年も大人をやっている土方は慣れていたけれども。
肩を震わせてさらさらの髪を揺らすその少女から、土方は目を離せずにいた。その子の着ている制服は全国でも有名な資産家が集うお嬢様学校のもので上品な女が好きという少し変わった性癖を持つ土方にはそれだけで凝視してしまう理由に十分になったのだけれども顔もとても好みだったのだ。別に下心なんてなかった(と土方は自分に言い訳をした)けれども自然と、男に手がのびる。

「オイ、ちょ」
「いい加減にしときなァ、テメェ」
「え…」

ガッと土方が痴漢男の肩を掴んだのと同時に、少女のチェリーピンクの唇から言葉が発せられた。鈴の鳴るような、透き通った綺麗な声だったが想像していたより低いその声はとても心地良く土方の耳に響いたのだけれども出た言葉は愛らしい顔からは想像できないような汚い言葉だ。
その上ヒュっ、と、空気の音がなったと思ったら次の瞬間男は吹っ飛んでいた。その少女がぶっ飛ばしたのだ。細い腕から出されたとは思えないほどの力強い拳に肩に触れていた土方は少しだけ巻き添いをくらってしまう。

「ツッ、」
「あっ…」

それに気付いた少女は声を出して申し訳なさそうに眉を寄せた。男を殴った細い指が今度は土方のジンと痺れた腕に触れる。

「やだ、すいやせん…っ」
「いや、」
「大丈夫ですかィ」

まるで自分の妄想から出てきたかのように好みの顔が自分に近づいてきて土方は思わず視線を逸らした。顔に似合わぬ江戸っ子口調さえ可愛らしく思えてしまう。腕に触れた手を動かして、そこを撫でる少女。伏せ目がちに腕を見て心配そうな顔をして、けれども不意に気付いたように上を向いた。

「アンタもしかして助けてくれようとしたんですかィ?」
「え、あ、いや、…まぁ」

今時全くの善意で痴漢に合ってる女の子を助ける奴なんて、いない。現に土方も多少の下心もあっただろうと思う。偽善者ぶってるとでも思われただろうかなどとスレた事を思ったけれどもその少女はとても素直だった。

「ありがと」

そう言ってにっこりと、笑った。

「何度か電車乗ったことあるけど、助けてくれたのアンタが初めてでさァ」

嬉しそうに笑いながら言う少女に土方もつられて笑ってしまう。けれども次に顔を上げて見えた顔は少し眉を寄せた苦笑いをしているような表情だった。じ、と土方を見ていた大きな瞳をそこから逸らして少し伏せさせる。

「でも助け甲斐のないオンナだって、思ったでしょう」

悲しそうにも見えるように言う少女にそんな事ねぇ、言おうとしたその言葉は車掌の駅名を告げる声にかき消された。それを聞いてあ、と、少女が呟く。そしておりなきゃ、小さく呟いた。

「ここでおりんの?」

この駅は学校の最寄駅ではない。思わず聞いてしまった土方に少女はニコリと花のような笑みを浮かべて言った。

「今日は、サボるんでさァ」

いたずらっぽく笑いながら言う少女にだから電車に乗ってきてたのかと土方はやっと納得する。ずっと名門のお嬢様なら普通登下校は電車なんかに乗らないでハイヤーで送り迎えなんではないかと思っていたのだ。
また駅名がアナウンスされその数秒後プシュとドアが開いた。ばいばい、言って手を振りながら少女は電車から出て行く。それを見ていた土方は、ばいばい、そう思っていたのだけれども自分でも気付かない内にドアが閉まる寸前、電車から出ていた。

「(うっわ…)」

思いがけない、自分でも予期できなかったその行動にドアが閉まるのを後ろに感じながら土方はやってしまったと思う。勢いで行動するほど若くないと思っていたのはどうやら間違いだったらしい。
少女の方を見てみると不思議そうな顔で自分の方を見ていた。ヤバイ、怪しいオジサンだと思われたか、土方は思ったのだけれども少女は思っていたより俗な事を知っているらしかった。

「いっしょに、行きやす?」
「あ、…うん」

意外に慣れた様子で腕なんか組んでくる少女に土方は驚く。世間知らずなお嬢様だと思っていたからだ。こういう事、何回もあるのかもしれないこんだけ可愛けりゃしょうがないか、思いながらしかし純白なイメージを抱いていた土方はほんの少しだけだが冷めた気がした。
控えめに柔らかな胸の当たる感触が腕を刺激する。土方はそれに余計萎えるのを感じたのだけれども。ふ、と下を見ると愛らしい顔が見えてあやっぱり可愛いなぁこんちきしょうと一気に欲が高まったのを感じた。


END

大人の威厳を見せろや土方ァ!と思う
あ、あの、一応やんちゃなお嬢様っていうリクエストのものです…
あー…なんか、だめですね…だめだ…だめだめだめだめだ(えー) 

 うらら 051024