俺が死んだら、俺のことを忘れてくれたらいいです
(部屋のものは全部燃やしてください、服も布団も家具も刀も全部)
俺が存在していたことを頭の中から消してください
俺は土方さんの頭の中にほんの僅かでも残ることを少しも望みません
俺なんていなかったかのように毎日を過ごしてください
どうか楽しく過ごしてください
土方さんが少しでも笑っていてくれることが俺の1番の幸せです

俺はきっと、極楽なんかにはいけないだろうけど、きっときっと地獄へおちるだろうからわがままなんてひとつも言えないだろうけど、
地獄へいく途中もしも俺のおねがいごとを聞いてくれるような優しい天使に会えたなら土方さんを幸せにしてくれるようおねがいします
俺なんかがおねがいごとできる立場じゃないって、とてもしかられるかもしれないけど、それでも土方さんの幸せをおねがいします
土方さんがいつまでも幸せに生きれるように、つよくつよくおねがいします


くりかえし書きます
俺のことは、忘れてください
忘れてくれていいんです
どうぞすぐに忘れてください
俺なんかのことで泣かなくていいです
苦しまなくていいです
辛いおもいをしなくていいです

土方さんが俺のことを忘れてくれなければ俺は少しも嬉しいきもちになれません

もしも、もしも俺のことをほんの少しでも好きでいてくれたのならば、
俺のことを思って一粒だけ涙を零してくれればいいです、
俺の事を考えて一瞬だけ息を止めてくれたらいいです、
俺が死んだことに指の先ほどだけ心を痛めてくれたらいいです、

そうしてくれるだけで俺はじゅうぶん満足です






そこまで書いて沖田はぱたとシャーペンを置いた。
きたない文字。ざっと読み直してみて思う。そして沖田はすぐにその紙をくしゃくしゃと丸めた。誰かに見せるために書いたものではなかった。吐き出したかっただけだ、心にたまったものを。
この紙に書いたことは本心でこの紙のこと通りになる事を沖田は望んでいるけれども誰にも、特に土方になんて、見せる気はさらさら無かった。だってこんな手紙土方が読んだら逆に自分の事を忘れられなくなるに決まっている。
土方さんって、優しい人だから。沖田は少し笑いながら思う。
そりゃいつか忘れてくれるだろうけれど、忘れるまでに余計な時間をかからせてしまう。
その時間が、もったいない。
いつまでも死んだ人なんかのこと、考えてちゃいけない。
流れていく時に置いていかれちゃいけない。

でも、だけど、紙を丸めて燃やそうと思ったのだけど、つけたライタの火に紙を差し出すのを少し躊躇ってしまった。それに気付いた沖田は儚く笑う。

「(おれってほんとうはすごくどんよく…)」

あぁできるならば、自分の部分どこかひとつだけでも綺麗なままでこの世から消えたいのに。


END

 

 さいごの手 051104