部屋中に響き渡るほどの大きな音が沖田の頬の上でなった。
反射的に叩いてしまったせいで土方はうまく手加減ができなかった。そのせいか沖田の小さい体はふっとんでしまい大きい音をたてて壁におもいきり激突する。そのままずるずると座り込みながら沖田はきつく土方を睨みつけた。

「いってェな…」

呟く沖田の声を聞きながら土方はできるだけ沖田のそばにあったそれを見ないようにし何とか心を落ち着かせようとしていた。惨すぎた。別に土方は心優しいわけでも良い人なわけでも情が深いわけでもないって自分で思っていたけど沖田がこんな事をしたという事と目の前のものを見て冷静でいられるほど心無しなわけではない。

「言っとくけどアンタには、何言う権利もねぇですァ」
「…どういう意味だよ」
「俺、知ってる」

沖田がボソッと言った。瞳を伏せて下の方を見て痛みからだろうかそれともこれから言おうとしている事を思ってなのか僅かに眉を寄せてけれども冷たい瞳をしているその表情は、あんまりにも大人に見えて土方はびっくりした。まだ子供のくせになんて顔をしやがるんだと思う。

「アンタだって、殺してるじゃないですかィ」

出された声音には何の濁りもなくて純粋という言葉がそのまんま当てはまるような声でそれはその形のまま土方の胸に届く。土方は言われて一瞬ぎくりとした。ずっと沖田の方に向けていた視線を逸らす。それに気付いたのか今度は沖田の方が土方を見た。

「人間!」

唐突に大きな声で沖田が言ってそれが会話の続きを促されたことだと気付いた。
土方は今沖田が殺生な事をしたことと自分が人を斬っていたのを知られていたということとでものすごく混乱していて、けれどもそれを頭の中で整理してまとめてもうどうでもいいやと無理矢理割り切る。そして沖田への態度を変える事にした。今までは子供として扱っていたけれどそんな必要はもうないことに気付いた。ナメていたらこっちが呑まれてしまう事に、気付いたのだ。

「俺は、斬る理由がある」
「理由があれば殺してもいいの!?」

普段の沖田からみれば怖いくらい感情的に叫ぶように言われてたじろいでしまう。けれども土方は自分が間違ったことをしているとは思っていなかった。自分がしている事は無駄な殺生ではないと、無駄でなければ殺したって良いんだとそれは仕方のない事なのだと別に悪いことではないのだと、思っていた。けれどもそれは自分を守る、自分を正当化する、そのための言い訳でしかないことを土方は心のどこかで気付いていた。それを沖田は見透かしたかのようにふんっと笑う。

「じゃあ、俺だって、理由くらいありまさァ」
「…んだよ」

沖田はもう落ち着きを取り戻していて、皮肉な笑みさえ浮かべていた。土方はその顔を見ていたくなくてまた瞳を逸らす。沖田のどろどろとした内側が見えてくるのが怖かった。みたくなかった。

「なかみ見てみたかった」
「っ…」

また反射的に頬を打ちそうになってけれども沖田の瞳が自分を鋭く睨みつけていてその瞳に気圧されてしまい振り上げた手を止める。沖田は音をたてることなくまた笑った。

「理由なんて、関係ねぇや」
「土方さんはそんな事言って、理由がどうだとか言って、逃げるの?」
「正当な理由があって殺したのとなくて殺したのと、どちらなら良いとかどちらなら悪いとか、そんなんあるんですかィ」
「どっちだって同じでィ」
「土方さん、あんたいつまで善人ぶってるつもりなんですかィ」
「人間の肉に握り締めた刀すりこませた時から、もう俺らは他とは違う人間なんですァ」
「中途半端が1番きたねぇんだってこと、わかんねぇの?」

一つ一つゆっくりと決してまくりたてるようにではなく全く土方の勘にさわるようなことなく、沖田が言った。どれも土方が思っていてけれども考えることを放棄して自分では片をつけれなかったことばかりだった。どんなにけがれたって善人ぶりたい自分がどこかにいたのかもしれない。他の人間とは、違う。きっぱりと言われて土方はやっと本当にそうだと言う事に気付けた。
そして土方はもう一つ気付いた。沖田が、土方に合わせてきてくれたことに。沖田は土方が人を斬っているのを知って、自分とは違う世界に行ってしまったのを知って、自分もその世界に入ってきて、くれたのだ。そしてまだ元の世界に未練たらたらの土方に喝をいれてくれた。土方は、眩暈がした。子供扱いなんてとんでもなかった。沖田の方がずっとずっと大人だっただけど。だけど、と、土方は思う。
沖田は、沖田はまだ間に合ったのに。斬らなくてよかったのに穢れなくて良かったのにこちら側の人間にならなくて良かったのに綺麗なままでいれば、良かったのに。

2人の距離を縮めるための犠牲になったもう動かない猫を見ながら土方は沖田に軽率な行動をさせてしまったことを後悔した。


END

土方だらしねェエエ(本当にな!)  

  かなるはじまり 051202